【若水】
 元旦の朝早く、家の男たちが若水を汲む。汲む水の場所は家々のしきたりがある。汲んできた若水で家族の者が顔を洗い、若水でフクチャ(福茶)をいれたり、雑煮をつくる水に使う。

 

【正月の餅揚き】
 
正月は太陽暦にするか、陰暦にするかの違いはあるが、昭和20年代あたりまでは、陰暦が多く、どの家でも4~5斗のもち米を、数軒共同で朝早い時間から、一日がかりで餅つきをしていた。神仏に供える餅を初めにとり、鏡餅小餅に続いて竹や木の枝に餅花を作り、日をおき正月の飾り付けにした。
 餅花は神棚や籾俵、セコ(籾の保存容器)に飾り付け、年があけてから最初の雷が鳴った時、これを煎ってから食べた。又保存食として「かき餅」を作って
おくのも正月の餅からであった。

 

【正月の飾り物】
 
正月には、床の間に鏡餅(うらじろ、餅、ゆずり葉、榿と積み重ね、こんぶ・するめ・干し柿を飾り付け)を供える。
 
家の門口には、門松をたて(松・梅・竹)しめ縄をはる。家の土間にはサワギをかけ正月を迎える。
 「
門松」は代々受け継いできた我が家を、年頭に当って確認するために門松を立て、松の緑の年中、萎むことのないめでたい姿に家門の繁晶を祈るのである。
 
「燈」(だいだい)は親より子、子より孫と先祖代々の意があり。
 
「うらじろ」は裏が白いのでその名があるが、親子草とも言い、複葉で二っに分かれた形を見て、昔の人は親子に見立てて名づけたものである。又、清浄の意味もある。
 
「ゆずり葉」古い葉は、葉柄から下にさがり、若い葉に日の光を充分にあてる習性を持っており、親が子にゆずる美徳をたたえる意味もある。
 
ところで、このような飾り物の意味を一貫してみる時「代々、この家を親より子にゆずる」と言う、日本古来の美風であった家族制度を物に託して願ったものである。

 

【サワギ】
 
四メートルぐらいの樫の木に縄を結びつけ、それにツルノハ(ゆずり葉)、モロメキ、こんぶ、いわし、だいだい、大根を飾りつけ、鍬、鎌などの農具を架けた飾りものである。

 

【初仕事】
 
正月二日、農事の初仕事を鍬入れと呼んでいた。
 
その年のノドコ(苗床)に予定している田んぼに、樫または椎の木に米のおひねりを結びつけたものを立て、「一粒万倍米できでき」と唱えていた。

 

【ナレナレ】
 川柳の木を逆手に削って反らしたものを、年徳様に供え、その木を持って、正月二日の朝、柿や梨など果樹を叩きながら、

   ナレナレ柿の木ナランギニャ打ち切るぞ
   
片ひらにゃ、千ナレ、片ひらにゃ万ナレ
   ナッテ、ンナッテンアエンナ(落ちるな)

と唱え、木々をつつきまわった。成り木責め(木責、木呪、果樹責、成祝)といい、東北から九州方面まで広くある行事。子供の正月の行事で、子供のいない家では、近所の子が代役して小遣いをもらった。
 
昔は、男二人で行ない、一人が「ナレナレならんと打ち切るぞ」と言いながら、ナタを樹幹に打ちこむと、もう一人が「はい、なります」と答えていたそうだ。