【狐や狸に化かされた話】
 
山浦の生活道路は、深い森の中にあり、人家もまばらで、静まりかえった道を行き来しなければならなかった。
 
ある日、仕事で遅くなり帰り道が暗闇で分からず困っていた。
 
男は、闇に向かって「夜は、お前たちの晩であるが、都合あって今晩は遅くなった。何とか通してくれ」と言うと、行き先々まで明かりをつけてくれ、事なく家までたどり着いた。
 
又、ある人は、「俺を馬鹿にしている」と怒り、明かりの方角に石を投げた。すると辺り一面真っ暗になり立ち往生、ほとほと困り果て思案している時、蛾美しい女の人が出て来て「宿を世話します」と声をかけて来たので、誘われるままに宿に着き一夜を過ごした。朝になり驚いた。いい宿どころかなんと、山の中のシダの上で過ごしていた。
 
下内罫の行商人が、ホシカ(煮干し)売りのため、紙袋にホシカを詰め、それを担ぎ村中を行商していた。すると、山中で案内人が出て来て、さんざん山道を連れ廻され、家に帰ろうとしたら、ホシカも金も無くなっていた。
 
村人たちは、ホシカを山の神に供えておけば、こんなことにはならなかったのにと、悔やまれた。

 

【中の井手の河童】
 
中の井手は、内野川と志岐道川との合流点付近にあり、豊かな水量で深みがあり河原ありで、人々の生活は川と深いかかわりのあるところであった、庄屋の下男と河童の話は、この水辺から始まる。
 このころは、牛馬は農耕の原動力として、鋤の牽引や荷物の運搬などの仕事の他、家畜として百姓の経済を支えていたため、飼育も家族諺一員として、愛情を込めて充たっていた。
 
ある日の日暮れ時、庄屋の下男は、汗や泥で汚れた馬を川辺で水浴びをさせた後、馬小屋に連れ戻った。馬小屋に入れてびっくり驚いた。
 
なんと、馬の尻尾に河童が悪ふざけしてぶら下がっておったので、下男は「この野郎、河童め」と叱りつけたが、河童のいたずらは止まる事なく続いた。怒りに怒った下男は、河童に掴み掛かって撃退した。
 
河童は自分のいたずらを幾度となく詫びたが、下男の気分は治まらず、近くにあった「ぞうず」(食事の残り物と水の雑炊)を、河童にぶっかけてしまった。今まで弱気だった河童も、頭の皿に水が入るや、猛者となり下男への攻撃に変わった。騒ぎは大きくなり、いつ果てる事なく続いた。あまりの騒動に庄屋の知る所となり、庄屋が出て来て事の一部始終を聞き、河童の悪ふざけを諭したので、渋々川へ戻って行った。
 
それからは、河童のいたずらは無くなったと言う。