2012年4月18日

『銀天街物語』第二十四話

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                    ヒロシ☆メッセージ(後編)☆

                                                                                  文☆K(ケイ)

 

( 神様は なんて・・・ なんてイジワルなんだ! )

あまりにも不条理な事の展開に 僕の激しい憤りの感情が

鋭い刃となって 他人の心の中を読める能力を持った彼の

心を貫いたかのようで 彼は 一瞬 苦しげに顔を歪めた!

( あ、ゴメンナサイ! 貴方は まったく悪くないのに・・・

つい 貴方を責めるような言い方をしてしまった・・・

グチを いえ、今の僕の気持ちを ただ聞いてもらいたかった

それだけなんです!

このチビすけのことにしたって 命が助かってよかったって

ほんと心底 そう思っているんですからね・・・ ただ・・・

ユキエやユウコと永遠に別れる日は もっとず~っと先の

ことだと いや、僕の齢では 想像さえしたこともなかった

なのに こんなにも 突然に!

もう少し 生きていたかったのに・・・

十年 いや せめて五年でもいい!

ユウコに もっと僕との思い出を 残してあげたかった!

それが 出来なくなったのが 残念で・・・ 悔しくて・・・ )

彼にそこまで話すと 思わず涙が 頬を伝って流れ落ちた

( 貴方は やはり この世の人ではないんですね~  

だって 僕は今 フルフェイスのヘルメットを きっちりと被って

いるのに 貴方は 今まさに 僕の涙を 指で拭ってくれている

僕にしても 貴方の その白くて細い指先が 僕の頬に触れて

いるのを確かに感じている・・・ ガラス越しにも かかわらず

でもこれって 現実には 絶対にありえないことですもんね

まさに マジシャンもビックリの超常現象だ   アハハ・・・ )

最後は もう半ばヤケクソ気味に その人に笑いかけると 彼も

優しい眼差しで 静かに微笑みを返した

( 貴方のその微笑み・・・ ああ、そうだ! 

今ようやく 思い出しましたよ・・・

僕が 初めて天草を訪れたあの三日間の短い旅の間中 ず~っと 

何処からか 誰かの優しい眼差しを感じていたんです

あの時 旅人の僕を見守ってくれてたのは・・・ 貴方ですよね? )

《 ・・・ええ ・・・でも・・・ ワタクシのあの時の心境は とても

複雑なものでしたよ・・・ アナタは この旅の終わりには きっと

これから この天草で暮らしていこうと 決心するのだろうなと・・・

ワタクシとしても  アナタが この天草を好きになってくれたことは

とても嬉かったのですが・・・ でも それは同時に アナタの人生が

短いものになるという選択でも・・・ あったのですから

( でも 僕の選択は 決して間違ってはいませんでしたよ

ほんとうに 天草での七年間の暮らしは 一生分の幸せを 僕に

もたらしてくれました・・・ それは 紛れもない真実ですから )    

《 ええ、そうですね・・・ ワタクシも そう思いますよ・・・

アナタの短かかった人生は ワタクシが とうてい経験できなかった

数多くの出来事にちりばめられて キラキラと輝いていましたよ

何の伝も無い土地での開店、無二の親友との出会い、地元の人

たちとの交流、愛する人との結婚、そして 二人の間に生まれた

最愛の宝物・・・ この後もきっと いろいろな可能性があるはずの

アナタの人生・・・ もっと永く 人生を歩ませてあげたかった・・・   

でもワタクシには 人の運命を変えられる能力はないのです 

災いを回避して あなたを救うことは できなかった! 

それは もう 神様の領域のことですから・・・

ワタクシが こうして アナタに会いに来た理由は せめて 旅立つ

アナタからの伝言を 残されたアナタの大切な者たちへ届けるため

・・・ ワタクシが アナタにしてあげられるのは そのくらいのことしか   

ないのですよ・・・ 》  

( そんな・・・ そんなすばらしいチカラが 貴方にはあるんですね ! 

だとすれば 今の僕には とても、とても有難いことだ!

愛する妻と 可愛い我が娘に 僕の想いを・・・ 

僕の最後のメッセージを ぜひぜひ 届けてもらえますか!? )

僕は 残していく者たちへの伝言を ゆっくりと 何度も 心の中で

思い巡らした・・・ どうしても これだけは 伝えたいことを・・・

その人は 神妙な顔つきで そのすべてを読み取ってくれた

そのことで ようやく 僕は・・・ 安堵した!!!

《 では 少しの間だけ停滞させていた時の流れを あるべきように

戻します・・・ もうこれ以上は 止めておくことは 出来ませんので 》 

彼がそう言ったとたん それまで静寂だった周囲が ザワツキだした

もう あまり時間がありません・・・ 彼が最初に発した言葉の意味は

そういうことだったのか・・・

「 何か ぶつかったぞ~!」   「 人が 倒れている!」

「 こんなところで なんでまた 事故なんか・・・ 」  

「 誰か 救急車を呼べ~~!」

何人もの人たちが 僕の方に 駆け寄ってくる気配がした・・・

《 これから アナタがゆく世界へ ワタクシが ご案内します

アナタからの伝言は いつの日にか 相手にとって それが必要に

なった時 必ず届くようにしますからね

だから どうか こころ安らかに・・・ ヒロシさん・・・ 》

( ありがとう・・・ 貴方に最期を看取ってもらえて 僕は 幸せ者だ

ほんとうに ありがとう・・・ 四郎・・・さん・・・ ですよね ・・・? )

その人の 白くて すべらかな肌をした細い首もとに掛けられた

一連の鎖の先端で揺れている小さな十字架・・・ 質素な 木綿の

Tシャツとはおよそ不釣合いな 細かい細工が施された 重厚な

銀製のその十字架を目の前で見つめながら 僕は そう尋ねてみた

 

彼は はい、と答えたのか それとも いいえ、と言ったのか・・・

 

僕の この世界での記憶は そこまで・・・

 

僕にとって 人生最良の二十九歳の春三月・・・

 

今年の桜を見ることもなく・・・ 僕は・・・ 逝った・・・・・・・・・

 

      『銀天街物語』 第一部(全二十四話)  完

 

*おことわり*

地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが

登場しますが これは あくまでフィクション小説です