2012年4月16日

『銀天街物語』第二十二話

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                               ヒロシ☆人生の春☆

                                                                                       文☆K(ケイ)

 

天草高校に向かってバイクを走らせていた僕は 途中の通学路で

胸に生花のコサージュをつけ 手に小さな花束を持った高校生の

集団とすれ違った・・・

そうそう 今日は 高校の卒業式なんだよな~~

卒業式を終えたばかりの彼らの表情には 将来への希望と

チョッピリの不安感が・・・

がんばれ、若者!  未来は明るいぞ!  今の僕みたいに!    

僕とユキエが初めて会ったのも 卒業式の季節だったな~~ 

あれから もう七年か・・・ ずいぶんと昔のような・・・

でも つい昨日のような気もするな~~ 

銀座の店のオーナーは 僕に 将来は 天草の観光地で 新しい

店をオープンするなり 観光ホテルのレストランのシェフになる

なり 好きなようにすればいいって言ってくれてるけど 実は

もう僕には 新たな計画があるんだ

オープン当初は さほど不便も感じていなかった今の店だけど

順調に常連客も増えてくると さすがにちょっと狭すぎるようで

この際 路地からメインストリートに進出してみようかとも

思っているんだ

七年前 僕が本渡の町に来た時 郊外に大手のスーパーが

進出するという噂がささやかれ始めていたんだけど それが

現実となって いよいよこの秋オープンするそうで・・・

そうなったら 買い物客の流れも変わってしまうのかな~? 

キンさんは この時期 メインロードで店を開くのは冒険だぞ

って忠告してくれるんだけど でも僕は キンさんやお世話に

なった商店街の人たちのためにも 是非 この《銀天街》を

もっともっと活性化させたいんだ

みんなのためというだけではなく それは・・・ 僕の挑戦! 

高校の事務室で 大判のペーパーナプキンに包んだ店特製の

二段重ねの《洋食弁当》を大事そうに受け取りながら 女性の

職員さんが 僕にこう言った

「 キッチンHIROさんのお弁当 とっても美味しいって評判よ~

私も一度は食べてみたいって思ってるんだけど なかなか・・・ 」

おそらく彼女は その後に 値段が高すぎてと言いたかったん

だろうけど 作った当の本人を前にして さすがに そこまでは

言えずに 最後の部分は 笑ってごまかしていた

「 ぜひ一度 食べてみてくださいね 」

僕も 代金を受け取りながら 彼女に微笑んだ

「 一人前三千円の弁当だってえ~!? 

そりゃあ この天草じゃ ちと高すぎるぜ~~!」

小料理屋のキンさんからも そう忠告されたんだけど 僕が

生まれ育った東京と 今僕が暮らしている天草を繋げるものって

この弁当ぐらいしかないんだよな・・・

僕が 銀座で修行していた洋食屋の《特製洋食弁当》!

たとえご近所でも 料理の出前はしないという オーナーシェフの

方針だったけど 唯一 この弁当だけは 出前オーケーだったんだ

僕の役目といえば 添え物の野菜サラダ作りと 二段仕立ての

ランチボックスに 出来上がった料理を 盛り込むだけだった・・・

オーナーが フライパンで手際よく炒めた芝エビと卵のピラフを

下段に盛り込み 上段には 弁当用に食べやすく小ぶりに作った

自家製ドミグラスソースの和牛ハンバーグ、じっくりと煮込んだ

タンシチュー、蟹クリームコロッケ、それに例の車海老のフライ

それらを どんな人が食べるのか想像しながら ひとつずつ

丁寧に詰めていったもんだった・・・

「 ほら、ヒロシ 一個余分に作ったから 食ってみな!」

そう言ってオーナーは フライやコロッケを味見させてくれたっけ

「 ウマ~イ! オーナーの料理は やっぱり銀座一ですよ~!」

「 バ~カ! それを言うんだったら 日本一って言いなっ!」

洋食弁当には オーナーとの思い出が いろいろとあるな~~

いつの日にか 僕が 店を持ったら 必ず この洋食弁当を

メニューに加えよう・・・そう ずっと 心に決めていたんだ

僕を なんとか一人前の料理人にしてくれたオーナーシェフ

東京と天草 遠く離れていても 彼と彼の店と どこかで心が

繋がっていたいという僕の思いの表れが この洋食弁当なんだ

だから いくらキンさんから忠告されても 弁当の内容も値段も

いっさい変えるつもりはないからね!

そう言ったら キンさん「 オマエも そ~と~頑固だな 」だってさ

そうそう 頑固といえば 僕たちの結婚を あんなに反対していた

ユキエの御両親も かわいい初孫の誕生には さすがに 心が

動かされたようで・・・

お父さんには内緒で お母さんのほうは 時々 ユキエと電話で

話したりしていたんだけど ユウコが生まれると 正々堂々と

お父さんが居る前で 孫の様子を訊ねるようになったんだ

お父さんも それにジッと聞き耳を立ててるみたいで(笑)

そしてついには お父さんの口から 「 今年の夏は 親子三人で

長崎に里帰りでもすれば いいじゃないか 」

・・・ってお言葉が あったとのこと!

それって 僕たちの結婚を 許してもらえたってことですよね!

僕も 家族の一員として受け入れてもらえたってことですよね!

「 うん!ユウコの幼稚園が夏休みになったら 三人で帰るから

・・・うん、うん、わかった・・・ ありがとう、お母さん 

あ、お父さんに・・・ お父さんに よろしくね・・・ 」

お母さんから電話で報告を受けたユキエは 受話器を下ろすと

ホ~~ッと 深く息を吐いたっけ・・・

何年間も 彼女の華奢な肩にのしかかっていた重い荷物・・・

それを ようやく降ろすことができた

そんな感じがする彼女の吐息だった

僕が代わりに背負ってあげられない荷物・・・

この僕を選んだ代償に 彼女なりに いろんな問題を抱え込んで

いたんだよな・・・ この七年間・・・

「 よかったな・・・ 」 僕は 彼女の肩を抱き寄せて ひとこと言った

「 うん!」 僕の胸に顔を埋めながら 彼女も ひとことだけ答えた    

この春は 僕にとって 人生最良の季節!!!

やがて来る夏は きっと 今以上の幸せを 僕たち家族にもたらして

くれるはず!  今から ワクワクするな ~~~   

まだ桜だって咲いていないのに 夏が来るのが待ち遠しい!

高校からの帰り道 そんなことを考えながら僕はバイクを走らせた

道路の右側にある一軒の旅館と別のもうひとつの旅館との間の

通り・・・ そこをまっすぐ行けばすぐに 僕たちだけで結婚式をした

あの神社があるんだけど・・・ その通りから 突然!

 

何か小さな物体が バイクの前に 飛び出してきた!

 

なんと それは あの・・・!!!

 

*おことわり*

地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが

登場しますが これは あくまでフィクション小説です