2012年3月21日

『銀天街物語』第十四話

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キンジロウ☆ヒロシとの出会い☆

文☆K(ケイ)

アイツが ・・・ シモガワラ ヒロシが この商店街に 初めて姿を

現したのは 今から そう ・・・ 十九年も前のことになるかな~

あの当時は この商店街も まだまだ活気があって・・・と言いたい

ところだが ここからちっとばかし離れた郊外に 大手のスーパーが

進出してくる噂が立ち始めて 俺としても 何だかイヤな予感が

していた時期でもあったんだ

そんな頃に アイツは 本渡の町に この商店街に やって来た!

季節は ・・・ そう、夏 ・・・ 七月の終わりの頃だったな ・・・

その日もヤケに暑い日で・・・ そろそろ店を開ける時分に

なったんで 店の入り口や前の路地を 掃き清めていたちょうど

その時 路地を隔てた斜向かいの店の周囲をウロついている

不審な若い男が 俺の目に映ったんだ

それが ・・・ ヒロシだったのさ!

路地を進むと キッチンHIRO 

最初は コソ泥が なにか物色してるのかとも思ったけどな

その店は 以前は喫茶店だったが もう五年以上も前に店を閉めて

今もそのまま 空き店舗の状況なんで よく考えたら 何も盗るもの

なんぞないよな ~ ( ガハハ!)

に、してもだ!  シゲシゲと 空っぽの店内の様子を伺うアイツの

ことが妙に気になって カミサンから またヘンなことに首つっこんで

って言われそうだけど 俺のほうから アイツに声をかけたんだ  

その店に 何か用でも?ってなあ~~

俺のほうを振り向いたアイツは 最初っから上から目線で  俺のこと

見下しやがった! 

まあ、単に 二人に身長差があっただけのことだがな ( ガハハ!)

すると いきなり アイツが言ったんだ!

「 いいお店ですよね~ 」ってな!  そうかぁ~?

これといって特徴のない さほど広くもない店なんだがな~

「 この方角だと 朝日が当たりますよね~  でも 西日のほうの

心配は無さそうだ・・・ 前にいた洋食店の厨房は 西日が差し込んで

夏は ちょっとキツかったんで ・・・ あの ~  貸し店舗って張り紙は

あるけど 大家さんとか、それとも不動産屋さんかな、 どこに連絡を

とればいいのか ご存じないですか~? 

僕 ここを借りたいんですけど ・・・ 」

アイツは 人懐っこい笑顔で 俺に そう問いかけた

気がついたら 俺は もうすぐ開店の俺の店のカウンターの奥の席に

アイツを座らせ 近所に住んでいる大家のオヤジを 電話で呼び出し

二人に 冷たく冷えたビールをついでまわり そのうえ 大家が 何処の

馬の骨ともわからない若者の素性をいぶかしがるもんで 俺が責任を

とるってことで アイツの身元引受人にまでなっていた ・・・   

口うるさいカミサンも 話に割ってはいる余裕もないほど その店を

借りる話はトントン拍子に進み その翌日から アイツは さっそく

店の修理と改装にとりかかったんだ

なるべく金をかけたくないということで ひとりでコツコツと ・・・

なんせ 俺の店のすぐ近くで トンカチやられりゃ 気にするなっていう

ほうが無理な話 ・・・ なんだかんだいっても 世話好きの俺は 店の

営業時間の合い間に 出来るだけの手助けは してやった ・・・

つもりだが 今思い返せば 若いモンにとっては ありがた迷惑な

ところも あったかもな ( ガハハ!)

幸い 二階が居住スペースになっているんで 寝泊りの心配だけは

いらなかったが 数日後 住み込みで修行していた東京の洋食屋の

ーナーから送られてきたアイツの家財道具は 数も少なく 質素な

ものだった    自炊の道具も見当たらなかったので ・・・ 当たり前か

職場の厨房でマカナイ料理を食ってたんだろうからな ・・・ なにかと

不自由だと思って さしより 我が家の押入れの奥に眠っていた

結婚式の引き出物の皿やカップや鍋やらを アイツに 気兼ねなく

使ってくれと渡したら えらく恩義に感じたようで お世話になるばかり

では心苦しいとかなんとか言って 夜の時間帯に 俺の店 「 青海 」

手伝いを してくれるようになったんだ 

皿洗いや店の後片付けは 率先して手伝ってくれるんだが 料理の

こと には 決して手を出さなかったな~

同じ料理人として 互いの領分を わきまえてたんだよな

そうはいっても 店に客が立て込むと ついカミサンよりも 手際がいい

ヒロシに 料理の盛り付けなんかを頼んだりするんだが 俺の作った

何の変哲も無い肉ジャガが アイツが ちょちょっと小鉢に盛り付けると

これがまた やけに美味そうに見えるから フシギだよな~

その頃になると カミサンも すっかりヒロシに気を許すようになり

握り飯を作っては ひとりで黙々と店の改装をしているアイツに

ちょくちょく差し入れするようになっていた

ヒロシの店がなんとか完成したのは 一ヵ月後の八月末のことだった

ひとりで黙々と、って言い方は 正確な表現ではないかもしれんな~

最初のうちは ヒロシの孤軍奮闘ぶりを 遠巻きにして見ていた商店街

連中も そのうちのひとりが 冷えた缶ジュースを一本差し入れすると

ヒロシは 人懐っこい笑顔で 丁寧に礼を言い その場で いかにも

美味そうに 一気に飲み干した

それがきっかけとなって 他の連中もアイツに声をかけたり ちょっとした

ものを差し入れるようになっていったんだ

塗料屋のオヤジなんか 店に余ってるペンキ持参で 店の外壁を塗る

ボランティアまで 買って出るシマツ!(笑)

電気系統の配線も 電気店の社長が 店の若いモンにやらせるから

って 格安の料金でしてくれて ・・・ その若いモンってのが 今は

独立して ひとりで電気屋をやってるカメガワくん ・・・ カメちゃんさ!

ヒロシとカメちゃんは 齢が近いせいもあって すぐに仲良くなり

ヒロシにとっては この天草で 初めてできた友だち ・・・ いや、親友

といってもいいかな ・・・

冷蔵庫やクーラーなどの電気製品は その年発表の新製品ではなく

二、三年前のものが 価格が下がっているとのカメちゃんの助言で  

思ったより安く 電気製品も揃えることができたと ヒロシも喜んで

いたっけ・・・  

まあとにかく店の開店まで この商店街の店主の多くが 何らかの

カタチで アイツに協力したことは間違いなく・・・ っていうか

この天草に何の伝も無い若者のために 皆でよってたかって 開店

までこぎ着けさせたって感じかもな ~ ( ガハハ!)  

ヒロシも 店が完成した時は 俺たち全員を招待してくれて ・・・

狭い店内は そりゃもう大賑わいで ・・・ カミサンたち女性陣が

給仕を受け持ち アイツは ひとり狭い厨房にこもって 何種類もの

ハイカラな盛り付けの料理を 次々に完成させていったっけ ・・・ 

同業者の俺が食ってみても ヒロシの料理の味は 絶品だった!

その時 心底思ったね~   ヒロシの店が 『小料理屋』ではなく

『洋食屋』で ホントに よかったってな!( ガハハ!)

酒店のオヤジさんからの差し入れのビールで 酔いが回った俺は

ようやく厨房から出てきたヒロシを 俺の隣に座らせ ビールを注いで

やりながら 以前から アイツに言いたかったことを 口にした 

「 何であの時 初対面のオマエを あんなにスンナリ受け入れた

のかって考えてたんだが  たぶん ・・・ オマエの その笑顔のせい

だったかもな~  何かにつけ キンさんキンさんって 人懐っこい笑顔で

頼ってこられちゃ こっちだって 出来るだけのことはしてやろうって

気にも なるもんな~ 」

「 だって カネもコネも無い僕にとって 笑顔は唯一の処世術ですから 」 

冗談とも本気とも受け取れる口調のヒロシだったが 最後はやっぱり

あの笑顔になっていた

それから七年後 ・・・ その時と同じメンバーが いや 店の完成祝いの

時の何倍もの人数が ヒロシのために集まった

寿司屋の二階の大広間を 二部屋ぶっとおして なんとか出席者を

収容したが 七年間をこの商店街で過ごしてきたヒロシの交友の

広さに 俺は 改めて気づかされた

しかし そこに 主役のヒロシの姿は ・・・ 無かった

その集まりは アイツのお別れ会だったからな ・・・

アイツの人懐っこい笑顔は 上座のテーブルの上の写真立ての中に

あった・・・ オマエ たった七年間しか この商店街にいなかったくせに

ずいぶん 皆からかわいがられて ・・・ 慕われて ・・・ 頼りにされて

いたんだな~~~

あのお別れ会から もう十二年も 経っちまったなんて ・・・

だけど この路地の様子は さほどの変わりもなく ・・・

ヒロシの店「 キッチン HIRO 」にしたって アイツの奥さんの

ユキエさんが 今でも しっかりと 守っているし ・・・

俺んところも あいかわらず カミサンと料理のことで口ゲンカ

しながらも この路地と平行に流れている町山口川の水のように

穏やかで 平凡な 日々が流れている ・・・ 

だけど、だけどな ・・・ またパパったら 変なこと言って~!って

アサカから馬鹿にされそうで口には出さないんだが 店の前を

ホウキで掃いたりしていると アレッ? ヒロシが 今しがた この道を

通り過ぎたんじゃないかって・・・ ふと そんな奇妙な感覚に

とらわれる時があるんだ・・・ 近頃な ・・・

これって いつ頃からなんだろう・・・ そう ・・・

先月の ・・・七月の ・・・ 終わりの頃からだよな~

そう ヒロシが この商店街に現れたのも 七月の終わり・・・

だったよな・・・・・・

*おことわり*

地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが

登場しますが これは あくまでフィクション小説です