2012年2月12日

『銀天街物語』第十話

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       真実の行方

文と絵 ☆K(ケイ) 

「 つまり アサカは その・・・ コウジさんが 実体のない幽霊か

なんかだと言いたいわけ?  アハッ! その冗談 笑える ~!」 

ユウコは ワザと明るい調子で その場の重苦しい雰囲気を

変えようとしたが アサカのほうは 相変わらず真面目な顔で

周りを気にしながら 声を潜めて話を続けた・・・

「 あの時 ユウコが私に こちらがコウジさんって紹介したじゃない

それまでまったく気づいてなかったのに ユウコが手で指し示した

方にスーッと目を移すと その場所に コウジさんが立っていたのよ

いたっていうか ・・・ そこで始めて存在を認識させられたって

いうか ・・・ ん~~ うまく説明できないんだけど・・・

なんだか すっごく奇妙な感覚だった・・・ だから 私 思い切って

彼に握手してくださいって言ったのよね   

幻ではなく ほんとに存在してる人間なのかなって思って・・・ 」

「 そっか~ なるほどねえ~~

あの握手は そんな意味があったのかあ~~     

で、どうだったの? コウジさんの手 氷みたいに冷たかった?」

「 んも~っ! 真面目に話してんのに~  ちゃかさないでよ!  

ちゃんと血の通った あったかい手でしたよっ 」彼女は口を尖らした

「 ごめんごめん!  だからさあ~   アサカは 踊りの練習疲れで

ボンヤリしてて コウジさんがいるのに気づかなかっただけだよ

それだけのこと! それより 私たちが ここに来てから もう10分は

経ってるわよ コウジさんを待たせてるんだから はやく帰らないと

あ、お母さん 私たちのプリン冷蔵庫に戻しといてくれたかな~

生ぬるくなったプリンって 美味しくないよね 」

「 こんな時に よくプリンのことなんか 気になるわね~

そんな小さなことを気にするいつもは慎重な性格のユウコが

なんで 数日前に知り合ったばかりの男の人 ・・・ コウジさんを

信頼してるのか チョット不思議な感じがするな~ 」

「 え? そうかな ~ 」 そういえば自分も アサカが言ってるような

ことを コウジを信用しすぎている母親に注意したことがあったっけ

今では 自分もコウジに気を許しているように見えているのか・・・

ユウコは 親友の言葉で それに気付かされた ・・・ その時だった  

彼女の目線の先にある ロビーの奥のエレベーターの扉が開いた

上の階で集会があったらしく 七、八人の男女が 手に地図の

ようものと 飲みかけのお茶の入ったペットボトルを持ちながら

中から出てきた・・・ 

マップ

いちばん最後にエレベーターから出てきたのは リョウスケだった

ゆっくりとした足取りの年配の女性を気遣い 開のボタンを ずっと

押していたようだ    「 あ! リョウちゃんだ! 何してんだろ?」

「 え? リョウスケがいるの? やだ! 今見つかったら マズイよ 」

エレベーターに背を向けて座っているアサカは うつむいて 身体を

縮めるような仕草をした

「 ・・・ ん~ 大丈夫! みんなと一緒に 玄関のほうに向かってる

なんか 大人のひとに囲まれて 緊張してるみたいよ 

だから 私たちのことなんか 目に入らないんだ~~  

・・・ん? アサカ? どうしたの~~?」

アサカは テーブルに両手をつくと 突然 椅子から立ち上がった

「 そうだ!リョウスケだ!」  そう言うと彼女は リョウスケたちが

立ち話をしているポルトの正面玄関口へと 小走りに向かった 

「 アサカ!だめだよ~~  もう店に戻らないと・・・!」 

ユウコも アサカの行動を理解できないまま 彼女の後を追った

「 シュミレーションどおりに うまくできるかわかりませんが

自分たちも楽しんで 観光案内人になることにしましょう!   

では ご苦労様でした~~ 」

「 お疲れ様でした~ 」「 お疲れさま ~ 」「 天草弁で案内したほうが

親しみやすいかな ~ 」「 でも それだと 都会の人にワカルかい? 」

リーダーと思しき初老の男性が 散会の挨拶をすると メンバーたちは

三々五々 商店街の中に散らばっていった  

どうやら リョウスケは 夏休みにボランティアをするといっていた 

街中観光案内に関する会議に 出席していたようだった

「 ナカヤマグチ君 期待してるからな がんばってくれよ  じゃあね! 」

「 はいっ! ガンバリマスッ!お疲れ様でしたっ!」

リョウスケは そのリーダー風の初老の男性に 深々とお辞儀をして

玄関から表に出ようとしていた     

「 リョウスケく~ん!」 アサカが 声をかけた

「 おっ! なんだよ  二人して ・・・ またポルトで 暇つぶしか ~ 」

振り向いたリョウスケは アサカから声をかけられたのが 少し意外

だといった表情をした  アサカは リョウスケの少し乱暴な物言いや

行動を嫌い いつもはなるべく 彼に近寄らないようにしている 

無頓着なリョウスケも さすがに 自分が彼女に好感を持たれて

いないことは ウスウス気づいているようだ  

その彼女が 今日は珍しく 自分から声をかけてきた

「 今日も暑いわね ~  これから ユウコんとこで アイスコーヒー

でも飲もうって言ってたとこなのよ  リョウスケくんも 一緒にどう?

私 奢っちゃうから ねっ!」

「 ん ~  コレ 飲んじゃったから 今 喉そんなに渇いてないな ~ 

また 今度 オゴッテくれよ!  じゃ~  俺 忙しいから ・・・ 」

リョウスケは 手に持っていた空のペットボトルをアサカに見せると

その場から立ち去ろうとした  

「 プリン! 美味しいプリンもあるから!」

 アサカは リョウスケの背中を両手でグイグイ押しながら

進行方向を 無理やり 『キッチンHIRO』に向けさせた

「 プリンより どっちかっていうと 蜂楽饅頭のほうが ・・・

ってゆ~か コマツバラ おまえ いつもとなんか違うぞお~~

何か たくらんでんじゃ ・・・ 」

「 べつに 何もたくらんでませんよ~ そんな変な先入観

持たないでよ!  ねっ! ユウコ! セ・ン・ニュ・ウ・カ・ン 」   

アサカは リョウスケに気付かれないように ユウコに片目を

つぶってみせた ( ・・・ え?  何? 先入観・・・? ) 

メインロードを抜け 『キッチンHIRO』がある路地に入ったとたん

ユウコは 突然 アサカのもくろみが理解できた

( そうか! リョウちゃんは 今から まったく先入観無しに

コウジさんと会うんだ! もしかすると アサカが体験したという

現象が・・・ コウジさんの姿が見えないという現象が・・・

リョウちゃんの身にも起きるってこと?   

お母さんから促されて それでやっと コウジさんの存在に

気づくってこと?  まさかね~ そんなバカなことが ・・・

アサカは リョウちゃんで もう一度そのことを試そうとして

いるんだ・・・ ) 何事にも好奇心や探究心が旺盛な彼女が

いかにもやりそうなことだなと ユウコは内心思った 

「 あ! またコマツバラの父ちゃんと母ちゃん モメてんじゃん?」

路地に入って三軒目の アサカの両親が夫婦だけで経営して

いる小料理屋「青海」の前を通りかかると 準備中の木札の

下がった店内から 夫婦が言い争っているような声がしていた

「 ああ またお店のメニューのことで ディスカッションしてんのよ

ママがアドバイスしても パパ 頑固だから ・・・ 」

「 メニュー?ディスカッション? なんか店の雰囲気とは似合わ

ねえな~   おまけに高校生にもなって パパ、ママかよ~~

俺なんか ちっちゃい頃からずっと 父ちゃん母ちゃんだぜ 」

「 私も中学三年生までは ママって言ってたんだけど さすがに

高校に入ってからは お母さんって言うようにしたのよね

最初はなんだか 照れ臭かったなあ~~ 」

「 そうなのよ  ユウコみたいにキチンと切り替えができなかった

から 私 いまだにズルズルと パパ、ママって言ってるのよね ~ 」

そこまで話すと 三人は『キッチンHIRO』の店の前に到着していた

アサカの話には半信半疑だったユウコも ここまでくるとさすがに 

間もなく真実が明らかになることへの期待と不安が入り混じった

気持ちになっていた 

アサカのほうも かなり緊張している様子だった

「 リョウスケくん お先にどうぞ~ 」 

アサカは ペパーミントグリーン色のドアを開けると 笑顔を作って

リョウスケに 先に店内に入るよう促した

「 なんか やけに親切だな ~ 」 リョウスケは 首をかしげながら

店の中へと 一歩を踏み出した

リョウスケだけを店の中に入れて ユウコとアサカの二人は

ドアの傍に立ち 中の様子を伺うことにした    

半分開いた扉から漏れてくる店内の冷気が ユウコの頬に当たった

二人は 息を呑んで リョウスケの反応に聞き耳を立てた・・・

「 おばさ~ん コンニチハ~! ・・・・ 」

*おことわり*

地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが

登場しますが これは あくまでフィクション小説です