2012年1月16日

『銀天街物語』第七話

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            親友

文と絵 ☆K(ケイ) 

「 それで? その、コウジさんだっけ~ そのあとどうしたの?」

アイスコーヒーが底のほうに少しだけ残っているグラスの氷を

ストローで突っつきながら コマツバラ アサカは 興味津々と

いった様子で ユウコに尋ねた・・・ 

彼女の両親は ユウコの店と同じ路地で 小料理屋を営んでいる

二人は小さい頃から 商店街を我が家の庭のようにして遊んだ

仲である   幼稚園から小学校・中学校と ずうっと同じ学校に

一緒に通い 何度か同じクラスになったこともある     

当然 二人で同じ高校に進学するものと思い込んでいたユウコ

であったが 中学三年の時 彼女から意外なことを打ち明けられた 

「 私ね 苓明高校を受験することに 決めたから!」

将来どんな職業に就きたいか まだはっきりとした目標がない

ユウコは いちおう大学だけは卒業しておこうと 高校は進学校の

天草高校に決めていたのだが お菓子作りが大好きで 将来は

洋菓子店を開きたいというはっきりとした夢を持つアサカは 

その実現に役立つ食品科学科がある苓明高校への進学を

彼女自身の意思で 選択したのであった

無二の親友の私に 前もってなんの相談もなく 違う高校に行く

ことを決めちゃって・・・ 私 アサカが傍にいないと すごく寂しい

のに・・・ 二人の友情もこれまでかと、その時は アサカに対して

憤りのようなものさえ感じたユウコであったが 二人とも希望どおり

の高校に入学し いざ学校に通いだしてみると お互いの運動会や

文化祭を見に行ったり いろいろと学校の情報を交換したりで 

幸いにも 親友の関係が壊れることはなかった

今日も二人して 商店街の《ポルト》の中の喫茶コーナーで

明日からの夏休みの計画や ユウコの身に起きた五日前の

あの出来事を話題に ずいぶんと長いことオシャベリに興じていた

「 ん~と どこまで話し・・・ そうそう 彼ね フルカワさんとこに

一晩泊まった翌朝 ウチに荷物をとりに戻ってきたんだけど・・・

戻りのタクシー代にって お母さんが彼に持たせたお金を全部

そのまま返してたのよね・・・ ずっと歩いて帰って来たんだって~ 

フルカワさんの家 意外と ウチから 近かったのよ!

ホラ 校舎から ちょっと離れた天高第二グラウンド・・・

アサカも よく知ってるよね 」

「 ああ 春に ユウコの運動会を見に行った あのグラウンドね 」

「 そう! あの近くにあるミカン畑のすぐ傍の家に フルカワさん

一人で住んでるんだって  体育の授業で 私 しょっちゅう 彼の家の

近くを通ってたんだよね~ 」 

「 ふ~ん ・・・ そうなんだ~ ・・・ ねえ!それより コウジさんの

ほうはどうしたのよ? 彼って 熊本市内の大学に通ってるんでしょ

もう 熊本へ帰っちゃった? 住所 聞いてる? 電話番号も 聞いた?

メールアドレスは知ってるよね? 彼って イケメン???」

「 そんなに次々と 質問されても ・・・ 実はねえ~ 彼 ・・・ 」

その時 ポルトの表玄関付近で 聞きなれた大きな声がした

    

 

「 そこの 女子ぃ~! ま~た ここを 喫茶店代わりにしてるな~

いくら ここが涼しいからって 100円のサイダー1本で いつまでも 

ねばってんじゃね~ぞぉ~ 」

そう言いながら ユウコの幼なじみで 同じ高校に通っている

リョウスケが ズカズカとテーブル席の二人のほうへ歩み寄ってきた

「 サイダーじゃないわよ  ジンジャーエール!」

「 わたしのアイスコーヒーは 150円よ!」

ユウコとアサカは ムキになって リョウスケに反論したが 確かに

彼のいうとおり ポルトが完成してからは 二人でちょっとオシャベリ

したい時など お互いの家のすぐ近くのポルトの喫茶コーナーを

ファーストフード店代わりに 利用することが多くなっていた

ポルトは正式には 《天草宝島国際交流会館ポルト》というのだが

オープンして数年経った現在も ユウコとアサカは ちゃんと正確に

正式名を覚えることが出来ないようである 

 ともあれ 『ポルトでお茶する』というのが 最近の二人の

マイブームになっているようだ    

この時期 クーラーが効いている場所で涼みながら オシャベリ  

できることが ポルトをお気に入りの理由らしい

「 コマツバラ 久しぶり~  なんか 新作のお菓子 開発した?

おれ いつでも毒見 ・・・ じゃない 味見してやるぜえ~~ 」

「 味オンチのリョウスケに 私が作る繊細なスイーツの味見役

なんて 無理無理~~ 」

「 リョウちゃん ポルトに 何か用でもあるの ・・・?」 

「 ん!?  ああ コレだよ コレ ・・・ 」

リョウスケは ズボンのポケットから四つ折にした紙を取り出して

丸テーブルの上に広げた

「 ・・・なんかの申込用紙? ・・・へえ!いっつも汚い字ばかり

書いてるリョウちゃんにしては 丁寧に書けてるじゃん! 

でもさ~  この《街中観光ボランティア》って 何~?」

「 シモガワラ おまえ な~んも 知らないんだな~ 

天草に観光にきた人たちのために 民間のボランティアが

街を案内してあげるんだよ~~

おれ夏休みを利用して その街中観光ボランティアになって

みようかなって思ってさあ~  

今日は その申し込みに来たってワケ! 」

「 へぇ~  天草大好きっ子のリョウちゃんらしいバイトだよね

で、時給は いくらぐらい もらえるの?」

「 シモガワラ なに聞いてたんだよ~  たった今説明しただろが! 

バイトじゃないって ボランティア!

お金なんか もらえないよ~  あ、でもさあ~ ここら辺の街中を

案内しながら 途中 何箇所かのお菓子屋で休憩するんだって!

甘いもの タダで食えるんだぜ~~  

もしかしたら お昼の弁当だって でるカモなあ~ 」

「 あっ ソレ いいな~! 私も そのボランティア やりた~い!」

大好きなスイーツが無料で食べられるとあって アサカも

ちょっと興味が沸いたようだった

「 何言ってるの! アサカは 八月に東京である全国高校総合

文化祭に出場するんでしょ~! 明日から これまでの練習の

総仕上げだって 話してたばかりじゃない 」

ユウコは いささか呆れて アサカの顔を見つめた 

親友の顔は 野外での練習で すっかり小麦色に日焼けしていた

彼女は 熊本県立苓明高校で 郷土芸能部に所属している

全国的にも かなり有名な天草ハイヤの優秀な踊り手なのだ

入学直後 彼女は 『スイーツ・クラブ』という同好会を立ち上げ

メンバーたちと オリジナルのスイーツを考案して 県内あちこちで

開催されるスイーツコンテストに応募し 何度か入賞もしてきた

のだが 郷土芸能部の顧問の先生からも ぜひにと入部を勧め

られたのである・・・ スラリとした容姿 愛くるしい笑顔 そのうえ

素晴らしい運動神経の持ち主であるアサカには これまでも

いくつもの体育系クラブからも 勧誘があった 

一方 ユウコのほうは 運動が苦手なうえに 人前で踊ることなど

恥ずかしくて とてもできそうにもない ・・・ 対照的な二人である    

「 エヘッ そうでした~  大会で金賞をとるために  ここ三ヶ月間

放課後毎日 猛練習してきたのに 明日っからは もっともっと

ハードな練習が待ってるのよねえ~  

あ~あ せっかくの夏休みなのにさあ~~ 」

「 文句いうんじゃないって コマツバラ~  東京に行けるだけでも 

羨ましいぜ~    シモガワラは 夏休みどうすんだ?  あ、そうそう

おまえは ど~せいつものよ~に 店の手伝いするんだよな~

おまえだけ 代わり映えがしない夏休みで ゴシュウショウサマ!」

「 べつに いいモン! 私、お料理の手伝い キライじゃないから 」

「 ま、お互い 有意義な夏休みにしようぜ! さてと 俺 この用紙

窓口に提出してくるから ・・・ じゃあな! 」    

ポルトの一階には 天草の観光倶楽部の受付カウンターがあり

リョウスケは その方向に 歩み去って行った

ユウコは 彼の後姿を 何となく眺めているだけであった

もしも ユウコに 未来を予知できる能力が備わっていたら

彼女は リョウスケの夏休みのボランティア計画を なんとしても 

止めさせたに違いない

しかし 今の彼女には 幼なじみのリョウスケが遭遇する怪事件を

このとき想像することなど まったく不可能なことだった

「 見て見て! ホラ!  リョウスケったらあ~

観光倶楽部の職員さんを前にして あんなに緊張してる~!

コチコチになってるう~~

なんか 就職試験で 会社のエライ人に面接されてるみたい 

キャハッ! リョウスケ けっこうカワイイ!」

アサカが 白い歯を見せて 笑った

ユウコ アサカ リョウスケ 三人それぞれの夏休みが

明日から ・・・始まる ・・・!

*おことわり*

地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが

登場しますが これは あくまでフィクション小説です