『銀天街物語』第二十五話
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ユキエ☆あれから・・・☆
文☆K(ケイ)
( ヒロシ・・・アナタがバイク事故で亡くなってから もう 十二年も
経つのよね・・・ ずいぶんと昔のことのような・・・ いえ、反対に
ほんの昨日の出来事だったような気もするんだけど・・・
アナタは 永遠に 二十九歳のまま・・・
そしてワタシは もう世間で言うアラフォー世代になったのよ・・・
でもね 私って ホラ 小柄で華奢なせいか 実年令より ずっと若く
見えるようで ユウコと一緒に歩いていると ちょっと齢の離れた
姉妹にしか見えないなあ~なんて キンさんが言うのよね~~
まんざら お世辞でもないみたいだけど・・・ ネッ! どう思う?
ん~~ 失礼ね! そんなに笑わなくっても~~ )
写真立ての中の笑顔の彼に向かって そう つぶやいてみる・・・
亡くなる前の年の七月 祇園橋を背景に お祭の法被を着て
陣笠を被り 挟み箱を肩に担いで 満面の笑みを浮かべている
アナタ・・・ ちょっぴり得意げな顔をしているのは 祭りの行列の
大役を任されたからなのよね・・・
行列が祇園橋を渡り その正面にある祇園神社への急な階段を
登りきって目的地の神社に着くまで 挟み箱を担いだ男衆が
橋の上を少し進んだかと思うと 次の瞬間 後戻りしちゃうのよね
それを 何度も何度も 繰り返して・・・ だから 真夏の炎天下で
演じているほうも 見物人のほうも みんな汗ダクになっちゃう・・・
どういうワケで そんな焦らしたりするのかって聞いたら アナタも
たぶん 誰かの受け売りらしい理由を とうとうと説明してくれた
んだけど・・・ ゴメンね~ なんだかとっても嬉しそうに話している
アナタの顔ばかり思い出されて 肝心の内容は 忘れちゃった(笑)
あの夏の祇園祭りは アナタにとって 最初で最後の晴れ舞台!
だけど私は 橋の上のアナタの勇姿を見ることができなかった
なにしろあの日は 夏風邪を引いて熱があったユウコが グズって
片時も私の傍から離れないもんだから 行列を見物したくても
お店の外に出られなかったのよね~~
お店の二階で 氷水で冷やしたタオルをユウコの額にあてながら
笛と太鼓の祭囃子を 遠くに聞いていたっけ・・・
キンさんのお店で打ち上げの飲み会がある夕刻には ユウコの
熱もすっかり下がって 私も お接待の手伝いが出来たんだけど
「 来年の夏はユウコと一緒にゆっくり 祭りの行列を見物すれば
いいさ~ あ、でも僕は 来年は他の役をやってるかもな~~ 」
な~んて 呑気なことを言ってたアナタ・・・
「 いやいや ヒロシくん 初めてにしちゃ とてもサマになってたぞ
来年も 挟み箱を担ぐ役は ヒロシくんでキマリってことだ!」
いくぶんお世辞かもしれないのに 一日で顔が真っ赤に日焼け
したアナタは まるで 学校の先生から 花丸のついた答案用紙を
返してもらった小学生みたいに 無邪気な笑顔をしていたわね
商店街の皆さんから かわるがわる労いのビールをついでもらい
ながら とっても嬉しそうだったアナタ・・・
ようやく ほんとうに この商店街に 溶け込むことができたって
アナタも そして私も そう実感できた日だったのに・・・
あの事故さえなければ アナタは きっと毎年七月の祇園祭りに
なると 見物客を焦らしながら 橋の上を行ったり戻ったりして
いたはず・・・ この先何年も・・・ ずう~っと・・・
イラスト
この写真は 祭りの撮影係りだった電気屋のカメガワくんが
撮ってくれたのよねえ~~ で、そのカメガワくんが 今では
アナタの後を継いで 挟み箱を担ぐ役を務めているのよ
でも彼も四十才を過ぎて ちょっとメタボ気味だし 汗っかきだから
重労働のあのお役目は すごくタイヘンそう~(笑)
町の皆さんの情熱と努力で お祭りは 十二年前のあの当時と
変わりなく引き継がれているのよ・・・ だからね ヒロシ・・・
変わったことといえば お祭りの行列の中に アナタがいないだけ
・・・ ただ それだけ・・・・・・
いけない! なんだか シンミリしちゃったわね・・・
そうそう 十二年前とおんなじっていえばね~~
カメガワくん ま~だ お嫁さんをもらわないのよねえ~(苦笑)
彼が独身で身軽なことをいいことに 私もユウコも いろんな
雑用を頼んでしまって・・・ カメちゃんも 快く何でもしてくれる
んで ついつい甘えてしまうのよね~~
高い場所の電球を取り替えるのは 背が高いアナタの役目
だったから 同じように長身のカメガワくんがお店に来ると
つい いつもアナタに頼んでいた調子で お店の電球を交換
してもらったり・・・ でもね もういつまでも 彼の好意に甘えて
いられなくなったのよ・・・
実はね・・・ この頃 カメガワくんの私に対する態度が なんだか
オカシイのよ・・・ ん~~ 言葉では 説明しにくいんだけどね
何か言いたげなんだけど・・・ でも 私と目が会うと 彼 あわてて
目をそらして 窓の外を眺めながら 急にお天気の話なんかを
始めちゃうのよ~~ ねっ! いつもの彼らしくないでしょ~~
これまでず~っと私のことは 亡くなった親友の奥さんって立場で
接してくれてたはずなのに ・・・ カメガワくんには悪いけど・・・
そんなことがあって 私も初めて 彼のことを 男盛りの異性だと
意識したのよね~~ なんだかちょっと ヘンな気分・・・
私がカメガワくんに頼っていることが 彼に好意を持っているよう
誤解させているんだったら これからは気をつけなくちゃあね・・・
え? ユキエの思い過ごしだろうって・・・ アナタ そう言ってるの?
ただの思い過ごしじゃないと 思うんだけどな~~
女の感って 鋭いんですからねっ!
な~んて 写真のアナタに 呑気につぶやいてもいられないのよ
アナタが生涯の地に決めたこの天草に 私も このままずっと
住み続けていくんだろうなと思っていたけど・・・ でもね・・・
十二年という時の長さは いろんなことを 変化させていったの
この商店街だって そう・・・ あの頃 アナタには この路地から
商店街のメインロードに お店を進出させたい夢があったけど
でも 商店街の様子も すっかり様変わりしちゃったのよ
大手のスーパーや コンビ二や ドラッグストアが郊外にできて
買い物客の流れが変わってしまったの
商店街を歩けば シャッターが降りたお店が目立つし・・・
アナタがいたら こんな状況でも きっと メインストリートに
新しくお店を出して 商店街の活性化に一役買っていたはず
だけど・・・ アナタというかけがえの無いパートナーを失った
私には そんな気力も能力も無い・・・
それに 長崎の両親も かなり年を取ったことだし・・・
心配かけた分 これからは せいぜい親孝行をしなくちゃね
兄夫婦には子供ができなくて お兄さんもケイコも 本当のところ
私がユウコを連れて実家に戻るのを 望んでいるみたいで・・・
私が天草を離れると カメガワくんとの仲も 夫の親友って間柄
のままで終わってしまうけど ・・・ そのほうが いいのかなあ~?
携帯電話で 天国にいるアナタに 相談できたらいいのにね
でも残念だけど そこは圏外だもんね・・・な~んて!(笑)
真面目な話 アナタに相談事があるのは 私だけじゃないのよ
あの時 まだ五才だったユウコも 今では 高校二年生・・・
進学のこと、将来のこと、きっと アナタに話したいことが
いっぱいあるはずなのよね・・・ 相談相手が母親の私だけだと
やっぱり頼りなく思っているんじゃないかなあ~~
そうそう このあいだ キンさんが 妙なことを言い出して・・・
先月の終わり頃からね キンさんが 店の前の路地に出てみると
ちょうど今しがた アナタが ここを通り過ぎて行ったんじゃないか
・・・そんな奇妙な感覚に襲われることが 時々あるんだって~
「 家内や娘に そんな話をしたらバカにされそうなんで ユキエさん
にだけ打ち明けるんだけど 俺 暑さ負けでもしてんのかな? 」
ですって・・・ そういえば・・・ 私も ユウコには言ってないんだけど
アナタのことを思い出すような ちょっとした出来事があったのよ
半月ほど前に フルカワさんという常連のお客さんが お店で急に
具合が悪くなられてね・・・ その時に・・・ あ、いけな~い!
もうすぐ そのフルカワさんが お店にみえる頃なのよ~~
お茶の支度の途中で なんだかボンヤリしちゃてたわ
フルカワさん 私に 何だか折り入って話があるそうなの
普段は ずいぶん無口な方なんだけどね~~
少しお時間をいただけませんか、って・・・ 何の話かしら?
今日は 『キッチンHIRO』の週に一度の店休日なので
午後のお茶の時間に お招きしたんだけど・・・
あ、入り口のドアベルが鳴った・・・ フルカワさんだ
「 こんにちは! フルカワさん こちらの席にどうぞ~~
今日も あいかわらず暑いですねえ~~ 」
*おことわり*
地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが
登場しますが これは あくまでフィクション小説です