『銀天街物語』第二十三話
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ヒロシ☆メッセージ(前編)☆
文☆K(ケイ)
( ・・・・・・やっぱり オマエだったのか~~ )
ソイツは 最初 かなり怯えている様子だった
そりゃ当たり前だよな~~
たった今 僕のバイクで 轢き殺されそうになったんだもんな・・・
でもやがて ソイツは 僕の方へ チョコチョコと歩み寄ってきた
( オマエ こんなところにいたのか~~ きのう 夕方遅くまで
ユウコたちが あんなにオマエを探し回っていたのにさ~~
ダメじゃないか~ 横道から 突然 飛び出すなんて・・・
僕だから 危うく 避けることができたんだからな・・・ )
なんとそれは 昨日 ユウコが拾ってきた あの子犬だった!
僕の右手の皮手袋に鼻をこすりつけて くんくんとニオイを
嗅いでいる・・・ そういえば 出掛けに ユウコの髪を この手で
撫でてきたんだっけ・・・ おい、チビすけ!
手袋越しに ユウコの髪の匂いでもしてるのかい?
子犬は 顔を上げて 好奇心満々といった仕草で 今度は
ヘルメットを被っている僕の顔を ガラスに鼻先を押し付けて
覗き込んできた・・・
( アハッ! オマエ なんてヘンな顔してんだ! 鼻つぶれてるゾ )
ヘルメットのガラス越ごしに 子犬と同じ高さで目線が合った!
僕は 路上に横たわっていた・・・!
子犬がバイクの前に飛び出してきたので 急ブレーキをかけた
瞬間 バランスを失い バイクが転倒したんだった
バイクから投げ出された僕は 道端の石碑・・・ 祇園橋のたもとに
ある石碑で 胸を強打したみたいなんだけど・・・
それにしては・・・ 不思議と 痛みが無いなあ~~
( かっこ悪う~~ こんなとこ 人に見られたくないな~~ )
でも・・・ 何だか 様子がおかしいぞ・・・
いくら人通りが少ない道だからって こんなに人っ子一人通らないか?
バイクが転倒した時 かなり大きな音がしたはずなのに 近所の誰も
表に飛び出してこないじゃないか!?
僕の周囲は 静寂に包まれていた・・・・・・
とにかく 起き上がらなくちゃあ! あれ!? 変だな・・・!?
身体に まったく力が入らない!
自分で 起き上がることすらできない!
ずいぶんと 変なふうに 転倒しちゃったのかな・・・
仕方ないな~ やっぱり 助けを呼ぶしかないか~~
あんまり 人に迷惑かけたくないんだけどな・・・
でも・・・ なんでだろう? 大きな声が・・・ 出せない!
( おい! チビすけ! オマエの命を 助けてやったんだからさ~
今度は 僕のために 誰か 助けを呼んできてくれよ~!)
すると これまで 僕にまとわり付いていた子犬が 後ずさりしながら
僕から離れ 突然 橋に向かって 一目散に走りだしたんだ
( オイ! コラッ! 何処行くんだ~! そっちじゃないってば ~
橋の上なんか 誰も通っていないって~! )
路上に倒れている僕には 祇園橋の全景を見ることができなかった
僕の目には アーチ状の橋の手前半分しか映っていない
石畳の上を せいいっぱいの速さで走っている子犬の小さな後姿は
その頂上で 橋の向こう側に かき消えてしまった ・・・
( 命の恩人をほっぽいて 逃げちゃうのか~~ この薄情者~~ )
するとすぐに 子犬の姿が 橋の頂上に再び現れた!
今度は 後を度々振り返りながら ゆるやかな下り坂を 僕の方へ
近寄ってくる・・・ なんだか 誰かを 道案内でもしているかのような
仕草だった・・・
( ああ、 たまたま橋の上に 通行人がいたのかな・・・ )
子犬のすぐ後から 一人の男性・・・ いや、少年といっていいぐらいの
年齢の若者が・・・ 僕の方へ 歩み寄って来た
落ち着いた感じで 大人っぽくは見えるけど 十五、六才ぐらいだろうか
白い木綿の長袖のTシャツに 洗いざらしのジーンズ、白いスニーカー
( ずいぶんと 軽装だな・・・ まだ 三月になったばかりなのに・・・ )
今の僕は ヒトサマの服装の心配などしてる状況ではないのだけど
彼は 僕のすぐ傍らにしゃがんで 心配そうに 僕の顔を 覗き込んだ
間近で見る若者の顔・・・切れ長の涼やかな目、口角が少し上がった
形のよい唇、鼻筋の通った色白のなかなかの美少年だった・・・
彼と目が合った瞬間 僕は その神秘的な瞳の中に 吸い込まれて
しまいそうな 軽い眩暈を覚えた
《 ・・・ もう あまり 時間がありません・・・ 》
それが 彼が発した 最初の言葉だった
( それは・・・ どういう意味ですか?
僕のジャンパーのポケットに 携帯が入っています
すみませんが それで 貴方に 救急車を呼んで欲しいんです
身体の具合が なんというか・・・ とてもおかしいんですよ!
それと・・・ 僕の家族にも 連絡をとってください! )
僕より一回りほども年下の 華奢な体つきの少年に向かって
《君》ではなく 思わず 《貴方》 と呼びかけてしまうほどに
彼が醸し出す雰囲気は 気品と威厳に満ちたものだった
だけど その時 僕は ある重大な事実に 気づいた!
僕も 彼も 実際に声を出して 会話をしていないじゃないか!
彼の その形のよい唇は ずっと閉じられたままだし おそらく
僕のほうも そうなんだろう・・・
だって いくら声を出そうと思っても まったく 出ないんだもの・・・
なのに 僕と彼のあいだで 会話が ちゃんと成立している!
いや、会話ではなく お互いに 心の中を読んでいるといったほうが
いいかもしれない・・・ これって いったい どういうことなんだ?
まさか テレパシーって いうやつか!?
どこか神々しい 彼の風貌・・・ この世の人間ではないってことか
オイ! チビすけ! オマエ なんだか タイヘンな人物を 案内して
きたみたいだな~~
けれど 彼が傍にいてくれるだけで 僕の心は癒されていたので
彼に対して 恐怖心のようなものは まったく 感じなかった
ただ 先ほどから 次第に湧き上がってきた ある懸念・・・
僕は ついに 彼に 核心の質問をした!!!
( 僕は もしや・・・ ここで・・・ 死んでしまうのですか?
いや、もうすでに 死後の世界に いるんでしょうか・・・
だって 極めて平凡な この僕がですよ・・・ この世のものとも
思えない すごく神秘的な貴方と こんなふうに 自由に
心と心で 話ができているんだから・・・ )
僕の問いかけに 彼は ちょっと悲しげな顔をしながら 頷いた
( まさか・・・! な、なんてことだ!!! )
たかが 捨て犬一匹のために なんで 僕は 人生を終えなきゃ
いけないんだ!
僕はこれから もっともっと いろんなことに挑戦してみたいのに!
どこまで出来るのか 自分の力を試してみたいのに!
「 若いオマエには 自分を磨く時間は たっぷりあるからな 」
僕を天草に送り出してくれたオーナーの言葉が・・・
その時 ふと耳元で 聞こえたような気がした・・・
*おことわり*
地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが
登場しますが これは あくまでフィクション小説です