2012年3月19日

『銀天街物語』第十二話

***************

ユウコ☆十七歳の憂鬱☆

文と絵 ☆K(ケイ)

なんだか SF小説好きのリョウちゃんが いかにも考えつきそうな

推理だよねえ~~  

「 シモガワラ おまえあの朝 なんか特別なことでもあったか?」

リョウちゃんは 真面目な顔でそう尋ねるんだけど あの朝は・・・

別にこれといって 思い当たることもないのよね

韓国ドラマにハマッたお母さんが 夜遅くまで ケーブルテレビを

観ていたせいで寝坊しちゃって 私のお弁当作りが間に合わな

かったのも 一度や二度のことではないし・・・

私は・・・ といえば 遅刻しそうになりながら 毎朝の登校儀式を

そう、朝の挨拶を・・・ 高校までの通学路の途中 祇園橋の傍に

ある石碑に向かって いつものように 心の中で 

( お・は・よ・う! いってきます! パパ! )って・・・

そこまでは いつもと同じような朝だったのよね・・・

そしたら 目線の先に 石橋の上で佇んでいるコウジさんの姿が

・・・ リョウちゃんの推理によれば コウジさんを必要としている人

だけ 彼の姿が最初から見えるんじゃないかってことらしいけど

あの時 私がほんとうに必要としていたのは コウジさんではなく                              

・・・ ヒロシパパ、私のパパのほうだったのに・・・

担任の先生から はやく進路を決めるようにと言われても

どの大学に行きたいのか・・・ それ以前に 自分は 将来何に

なりたいのか ・・・ ちょっと手先が器用なだけの平凡な私が

いったいどんな職業に就けるのか ・・・ 自分自身 何もわかって

いないんだもんね・・・

私たち若者の大部分は 地元の高校を卒業したら 就職や進学

のために この天草を離れてしまう・・・ それが当然のことように

・・・ 島外の大学や専門学校で学んだ地元天草の若者が

卒業後 故郷で就職するために天草に戻って来るケースは

ほんとに少ないのよね・・・  

「 大人たちは 今時の若いモンは天草みたいな田舎を嫌って

都会にばかり憧れるって言うけど 今も昔も 若者って都会志向

なのにね~~  自分たちが若い時のこと 忘れちゃったのかな~   

でもね ほんとうは 生まれ育った天草が大好きで ここでずっと

暮らしたいって思っている友達だって たくさんいるのよ!

だけどさ 肝心の就職口が地元になければ どうにも仕方ないし

あったとしても 熊本なんかと比べたら お給料が ずいぶんと

安いし・・・ 天草にいたくても いやおうなく天草から追い出さ

れてるって感じだよねえ 今の状況は・・・ 

大人の人たち ほんとにわかってくれてるのかなあ? 

私たち若者の本音を・・・ 」 

アサカも 最近 よくこんなことを言うようになったのよね  

そうだよね・・・ みんなが皆 都会嗜好じゃないんだもん

私に比べたらずっと 都会志向、上昇志向が強いアサカも

ほんとは自分が生まれ育った天草が大好きなんだよね  

リョウちゃんは 熊本の大学で経営学を修得したら 天草に

戻って来て 地元の仲間たちと一緒に 商店街の活性化の

ため いろんなことにチャレンジしたいって言ってるし・・・

アサカは 高校を卒業したらすぐに 東京のパティシエの

専門学校に進学して 将来は都会で 小さい頃からの夢だった

洋菓子店を開きたいそうだし・・・ でも この私はといえば

リョウちゃんみたいに 天草を守る覚悟も無いし ・・・

アサカみたいに 天草から飛び出す勇気も無い ・・・ 

結局 私だけが いつまでも宙ぶらりんな状態・・・

正直 二人に大きく差をつけられてるなって焦りもあるのよね

a 

クラスの友達は 「 ユウコは いざとなったら 家業を継げば

いいから 羨ましい~~ 」なんて言ってるけど 私は そんなこと

一度だって考えたこともないのよね~~

そりゃあ お料理するのは 決して嫌いなほうじゃないけど

せいぜい お母さんのお手伝いどまりだもん

『キッチンHIRO』は 確かに パパの夢であったし パパの夢を

受け継いだお母さんにとっては 大切なお店なんだけど

私の夢は たぶん このお店とは違うような気がしている・・・ 

今 ユウコは こんな気持ちだってこと パパに相談してみたい

あの時 パパに朝の挨拶をしながら そんな思いが チラッと

頭をかすめたんだった・・・

だから 今の私にとって本当に必要な人っていうのは コウジさん

じゃなくて 親身に相談相手になってくれるパパなのよね

そりゃあ お母さんにも いろいろと相談は しているんだけど・・・

パパがお店に出ていた十二年前と比べたら この商店街も

すっかり様変わりしちゃったし・・・

お母さんにしたって 口には出さないけど ほんとはパパに

相談したいことが 山ほどあるはずなんだよね・・・

パパだったら どんな風に 私にアドバイスしてくれるのかなあ? 

「 大丈夫だよ ユウコ そんなに心配しなくても 

ユウコがほんとうにしたいことは 今に必ず見つかるよ!」

って パパの大きな手のひらで 私の頭を撫でてくれるのかな?

「 ユウコの髪の毛はサラサラして ほんとにキレイだね 」 

パパ よく言っていたものね・・・ 

十二年前のあの時も パパはいつものように 私の頭を撫で

ながら 出かけていったっけ・・・  

お弁当を配達したら 急いで帰ってくるからって

お昼ごはんに 私が大好きなオムライスを作ってくれるって

たしか私 タコのウィンナーもおねだりしたんだった

でも その約束を 守ってくれなかったね パパ・・・

パパから料理の手ほどきを受けていたお母さんは ほんとに

上手に 卵がフワフワのオムライスを 今でもよく作ってくれるけど

でも 私が小さい頃に何度も食べたパパのオムライスとは

どこか 微妙に違うの・・・

私が そう思っていることは お母さんには もちろん内緒だけどね

中学生になるまでは ママ、ママって言ってたけど さすがに今は

お母さんって言ってるのよ 

でも パパは・・・ いつまでたっても パパのまんま・・・

五才の頃のユウコのパパのまんま・・・

もしも・・・ 十二年前のあの時に 時間を巻戻せるなら

私は パパのバイクの前に 小さな身体で立ちはだかって

パパを 絶対に・・・

行かせはしなかったのに!!!

*おことわり*

地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが

登場しますが これは あくまでフィクション小説です