『銀天街物語』第十話
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真実の行方
文と絵 ☆K(ケイ)
「 つまり アサカは その・・・ コウジさんが 実体のない幽霊か
なんかだと言いたいわけ? アハッ! その冗談 笑える ~!」
ユウコは ワザと明るい調子で その場の重苦しい雰囲気を
変えようとしたが アサカのほうは 相変わらず真面目な顔で
周りを気にしながら 声を潜めて話を続けた・・・
「 あの時 ユウコが私に こちらがコウジさんって紹介したじゃない
それまでまったく気づいてなかったのに ユウコが手で指し示した
方にスーッと目を移すと その場所に コウジさんが立っていたのよ
いたっていうか ・・・ そこで始めて存在を認識させられたって
いうか ・・・ ん~~ うまく説明できないんだけど・・・
なんだか すっごく奇妙な感覚だった・・・ だから 私 思い切って
彼に握手してくださいって言ったのよね
幻ではなく ほんとに存在してる人間なのかなって思って・・・ 」
「 そっか~ なるほどねえ~~
あの握手は そんな意味があったのかあ~~
で、どうだったの? コウジさんの手 氷みたいに冷たかった?」
「 んも~っ! 真面目に話してんのに~ ちゃかさないでよ!
ちゃんと血の通った あったかい手でしたよっ 」彼女は口を尖らした
「 ごめんごめん! だからさあ~ アサカは 踊りの練習疲れで
ボンヤリしてて コウジさんがいるのに気づかなかっただけだよ
それだけのこと! それより 私たちが ここに来てから もう10分は
経ってるわよ コウジさんを待たせてるんだから はやく帰らないと
あ、お母さん 私たちのプリン冷蔵庫に戻しといてくれたかな~
生ぬるくなったプリンって 美味しくないよね 」
「 こんな時に よくプリンのことなんか 気になるわね~
そんな小さなことを気にするいつもは慎重な性格のユウコが
なんで 数日前に知り合ったばかりの男の人 ・・・ コウジさんを
信頼してるのか チョット不思議な感じがするな~ 」
「 え? そうかな ~ 」 そういえば自分も アサカが言ってるような
ことを コウジを信用しすぎている母親に注意したことがあったっけ
今では 自分もコウジに気を許しているように見えているのか・・・
ユウコは 親友の言葉で それに気付かされた ・・・ その時だった
彼女の目線の先にある ロビーの奥のエレベーターの扉が開いた
上の階で集会があったらしく 七、八人の男女が 手に地図の
ようなものと 飲みかけのお茶の入ったペットボトルを持ちながら
中から出てきた・・・
いちばん最後にエレベーターから出てきたのは リョウスケだった
ゆっくりとした足取りの年配の女性を気遣い 開のボタンを ずっと
押していたようだ 「 あ! リョウちゃんだ! 何してんだろ?」
「 え? リョウスケがいるの? やだ! 今見つかったら マズイよ 」
エレベーターに背を向けて座っているアサカは うつむいて 身体を
縮めるような仕草をした
「 ・・・ ん~ 大丈夫! みんなと一緒に 玄関のほうに向かってる
なんか 大人のひとに囲まれて 緊張してるみたいよ
だから 私たちのことなんか 目に入らないんだ~~
・・・ん? アサカ? どうしたの~~?」
アサカは テーブルに両手をつくと 突然 椅子から立ち上がった
「 そうだ!リョウスケだ!」 そう言うと彼女は リョウスケたちが
立ち話をしているポルトの正面玄関口へと 小走りに向かった
「 アサカ!だめだよ~~ もう店に戻らないと・・・!」
ユウコも アサカの行動を理解できないまま 彼女の後を追った
「 シュミレーションどおりに うまくできるかわかりませんが
自分たちも楽しんで 観光案内人になることにしましょう!
では ご苦労様でした~~ 」
「 お疲れ様でした~ 」「 お疲れさま ~ 」「 天草弁で案内したほうが
親しみやすいかな ~ 」「 でも それだと 都会の人にワカルかい? 」
リーダーと思しき初老の男性が 散会の挨拶をすると メンバーたちは
三々五々 商店街の中に散らばっていった
どうやら リョウスケは 夏休みにボランティアをするといっていた
街中観光案内に関する会議に 出席していたようだった
「 ナカヤマグチ君 期待してるからな がんばってくれよ じゃあね! 」
「 はいっ! ガンバリマスッ!お疲れ様でしたっ!」
リョウスケは そのリーダー風の初老の男性に 深々とお辞儀をして
玄関から表に出ようとしていた
「 リョウスケく~ん!」 アサカが 声をかけた
「 おっ! なんだよ 二人して ・・・ またポルトで 暇つぶしか ~ 」
振り向いたリョウスケは アサカから声をかけられたのが 少し意外
だといった表情をした アサカは リョウスケの少し乱暴な物言いや
行動を嫌い いつもはなるべく 彼に近寄らないようにしている
無頓着なリョウスケも さすがに 自分が彼女に好感を持たれて
いないことは ウスウス気づいているようだ
その彼女が 今日は珍しく 自分から声をかけてきた
「 今日も暑いわね ~ これから ユウコんとこで アイスコーヒー
でも飲もうって言ってたとこなのよ リョウスケくんも 一緒にどう?
私 奢っちゃうから ねっ!」
「 ん ~ コレ 飲んじゃったから 今 喉そんなに渇いてないな ~
また 今度 オゴッテくれよ! じゃ~ 俺 忙しいから ・・・ 」
リョウスケは 手に持っていた空のペットボトルをアサカに見せると
その場から立ち去ろうとした
「 プリン! 美味しいプリンもあるから!」
アサカは リョウスケの背中を両手でグイグイ押しながら
進行方向を 無理やり 『キッチンHIRO』に向けさせた
「 プリンより どっちかっていうと 蜂楽饅頭のほうが ・・・
ってゆ~か コマツバラ おまえ いつもとなんか違うぞお~~
何か たくらんでんじゃ ・・・ 」
「 べつに 何もたくらんでませんよ~ そんな変な先入観
持たないでよ! ねっ! ユウコ! セ・ン・ニュ・ウ・カ・ン 」
アサカは リョウスケに気付かれないように ユウコに片目を
つぶってみせた ( ・・・ え? 何? 先入観・・・? )
メインロードを抜け 『キッチンHIRO』がある路地に入ったとたん
ユウコは 突然 アサカのもくろみが理解できた
( そうか! リョウちゃんは 今から まったく先入観無しに
コウジさんと会うんだ! もしかすると アサカが体験したという
現象が・・・ コウジさんの姿が見えないという現象が・・・
リョウちゃんの身にも起きるってこと?
お母さんから促されて それでやっと コウジさんの存在に
気づくってこと? まさかね~ そんなバカなことが ・・・
アサカは リョウちゃんで もう一度そのことを試そうとして
いるんだ・・・ ) 何事にも好奇心や探究心が旺盛な彼女が
いかにもやりそうなことだなと ユウコは内心思った
「 あ! またコマツバラの父ちゃんと母ちゃん モメてんじゃん?」
路地に入って三軒目の アサカの両親が夫婦だけで経営して
いる小料理屋「青海」の前を通りかかると 準備中の木札の
下がった店内から 夫婦が言い争っているような声がしていた
「 ああ またお店のメニューのことで ディスカッションしてんのよ
ママがアドバイスしても パパ 頑固だから ・・・ 」
「 メニュー?ディスカッション? なんか店の雰囲気とは似合わ
ねえな~ おまけに高校生にもなって パパ、ママかよ~~
俺なんか ちっちゃい頃からずっと 父ちゃん母ちゃんだぜ 」
「 私も中学三年生までは ママって言ってたんだけど さすがに
高校に入ってからは お母さんって言うようにしたのよね
最初はなんだか 照れ臭かったなあ~~ 」
「 そうなのよ ユウコみたいにキチンと切り替えができなかった
から 私 いまだにズルズルと パパ、ママって言ってるのよね ~ 」
そこまで話すと 三人は『キッチンHIRO』の店の前に到着していた
アサカの話には半信半疑だったユウコも ここまでくるとさすがに
間もなく真実が明らかになることへの期待と不安が入り混じった
気持ちになっていた
アサカのほうも かなり緊張している様子だった
「 リョウスケくん お先にどうぞ~ 」
アサカは ペパーミントグリーン色のドアを開けると 笑顔を作って
リョウスケに 先に店内に入るよう促した
「 なんか やけに親切だな ~ 」 リョウスケは 首をかしげながら
店の中へと 一歩を踏み出した
リョウスケだけを店の中に入れて ユウコとアサカの二人は
ドアの傍に立ち 中の様子を伺うことにした
半分開いた扉から漏れてくる店内の冷気が ユウコの頬に当たった
二人は 息を呑んで リョウスケの反応に聞き耳を立てた・・・
「 おばさ~ん コンニチハ~! ・・・・ 」
*おことわり*
地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが
登場しますが これは あくまでフィクション小説です