『銀天街物語』第九話
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告白
文と絵 ☆K(ケイ)
「 どうしたんですか~ おばさん こんなにたくさんの
イチジク~! あ、ユウコ 悪い! 冷たい麦茶 もらえる?
ハイヤ踊りの練習が長引いて やっと終わったとこなのよ~
もう喉が カラッカラ ~!」
店の中に入ってきたのは ユウコの親友 アサカだった!
「 プリンが冷えてるから ユウコといっしょに食べたら?」
「 あっ それも いただきます! いつもすいませ~ん
ユウコんとこは いつ来ても おしゃれなオヤツがあるわね~
ウチのオヤツなんか いつも お饅頭とか芋ケンピとか・・・
いくら小料理屋してるからって オヤツまで和風にしなくてもねえ 」
「 ・・・ アサカ? あのね こちらが ・・・ 」
「 その反動で わたし ケーキ作りとかに興味もったんじゃあ ・・・ 」
「 アサカ! 紹介するねっ!
こちらが このあいだ話してたコウジさん!」
いくらイチジクに気をとられているとはいえ ユウコのすぐ傍に
立っている長身の若者の存在が 何故か アサカの目には入って
いないかのようだった・・・
「 ・・・ え?」 ユウコが手をかざした方向を目で追ったアサカは
その時はじめて コウジの存在に気づいた様子であった
「 あ! ああ~ ごめんなさい ・・・ 踊りの練習がすっごくハードで
なんかまだ 頭がボ~ッとしてたみたいで ・・・ あの 私 コマツバラ
アサカといいます 学校の帰り道は いつもここに寄って 冷たいもの
とかオヤツとか いただいてま~す
ウチ ここから ほんの数件先なんですけどねえ~ 」
「 ヒロセ コウジです ユウコさんから聞いているかもしれないけど
フルカワさんのところで 目下 居候中です そうか~ ユウコさんとは
いいお友達同士なんだね 」
コウジは 柔和な微笑みを浮かべて アサカに軽く会釈した
「 ・・・あのお~ お近づきのしるしに握手していただけませんか!」
( お~っ! アサカったら やるなあ・・・ ) 親友の物怖じしない
積極的な行動は しばしば ユウコを驚かせていた
しかし アサカの性格からして ごく自然にみえるこの握手の
裏に隠された真の意味を この時のユウコは まだ察することが
できないでいた
「 えっ? いいけど 外歩いて来たところだから汗ばんでないかな 」
コウジは 右の手のひらを ジーパンでこする仕草をして アサカの
前に差し出した ここ数日フルカワの畑仕事を手伝っているせいか
彼の手は やや日焼けしていた あの朝 橋の上から撒かれていた
菊の花びらと同じくらい白くて ほっそりと長い綺麗な指先が 今は
ちょっとゴツくなって 土いじりで荒れているような ・・・
( パパの手も 水仕事でアレてたな~ 私のほっぺを撫でてくれる
ときも ザラザラしてたっけ・・・ コックさんなのに 熱いフライパンで
ヤケドしたりして よく手に傷作ってたっけ~ パパってけっこう
ウッカリ屋さんだったよね ・・・ ) ユウコは コウジの手に 父親の
思い出を重ねて しばし物思いにふけっていたのだが 店内の
雰囲気が 何かおかしいことを感じて 我に返った
( この静けさは ・・・ 何? )
母親のユキエは 先ほどから カウンターの中で 冷蔵庫から取り
出した手作りのプリンを 型くずれしないように 容器からデザート
皿に移す作業に集中していた・・・ この静けさの原因は 意外にも
いつもは饒舌なアサカだった!
カウンターの上に置かれた手提げ袋の中から イチジクを数個
取り出し 黙ったまま意味もなく積み上げようとしている
( ど、どうしちゃったのよ~ アサカったら~ なんか急に 黙り
込んじゃってえ~~ コウジさんとの会話 完全に途切れちゃって
いるじゃないの~ どんな時でも 周りがシラケていたら 自分から
率先して その場を盛り上げてくれるのに ・・・ いつものアサカと
全然違うじゃないの~ )
親友の第一印象が コウジに悪く思われたら なんかイヤだな ・・・
ユウコは なんとかこの場を和ませようと 気をもんでいた
「 アサカさんも もしかしたら 僕たちの仲間かな? 四人目のね 」
沈黙を破り 会話のきっかけを作ったのは コウジのほうだった
「 え? 仲間って ・・・ 何のことですか?」
アサカは イチジクを積み上げる手を止めて コウジを見つめた
「 いや、 ユウコさんのお母さん以外 イチジクが苦手な人が集まった
みたいで ・・・ もし アサカさんもそうなら これで四人目だな ~って 」
「 私は イチジク キライじゃないですよ そのまま食べるのも好きだし
あとは・・・ そう! ジャム! イチジクジャムって美味しいんですよ
皮をむいたイチジクとグラニュー糖を コトコト煮ると トロリとした
中に プチプチした種の食感が楽しいジャムになるんです 」
「 へえ~ 生食以外に そんな食べ方もあるのかあ ~
イチジクジャムって 僕 まだ食べたことがないんだけど ・・・
トーストした食パンに塗ったりして 食べるのかな?」
「 それもいいんですけど 私のお勧めはイチジクジャムマフィンかな
マフィンの生地の中に そのジャムをタップリ入れてオーブンで
焼くんですけど ・・・私 こうみえても スイーツ作り得意なんですよ
そうだ~ イチジクマフィン作ってみよう! 試食してくださいねっ! 」
ユウコの心配をよそに 初対面とは思えぬほど 二人の会話は
次第に盛り上がっていった ( な~んだ 気をもんで損しちゃったな )
「 のどカラカラだったんでしょ はいっ! 冷たい麦茶! 」
「 あ、サンキュー! ユウコ ~ 」 アサカは コクコクと喉を鳴らして
コップ一杯の麦茶を 一気に飲み干した
「 さあ! みんなでプリンでも食べましょ~ 私が作ったプリンも
アサカちゃんのイチジクマフィンに負けないわよ~ 」
ユキエは そう言いながら 店の一番奥の四人がけのテーブルに
プリンの皿を四枚並べはじめた
「 あ! おばさん すいません! 私 うっかりしてたんだけど
ユウコに 今すぐ相談に乗ってもらいたいことがあったんです ~
ユウコ! ちょっとだけ 話を聞いて! 外で ・・・ ねっ!」
「 え? なに? 突然 ・・・ ここで話を聞いたら ダメなの?」
「 ん~ それが ・・・ ちょっと デリケートな相談ごとなんだ~ 」
「 じゃあ 男性の僕がいたら オジャマになるといけないから
退散することにしようかな フルカワさんに頼まれて こちらに
イチジクとトマトを届けにきただけだから 用事も済んだことだし 」
気を利かそうとしたコウジの言葉を アサカは 慌てて遮った
「 あっ、コウジさんとは せっかくこうして知り合えたんだし
もう少しお話したいから ここにいてください!
私たち 十分くらいで すぐに戻ってきますから! ねっ!」
アサカの強引ともいえる申し出に コウジは 苦笑した
「 いいよ プリンでも食べながら待ってるから 女の子同士二人で
秘密の話でも しておいで 」
「 ほんとに すぐ戻ってきますから! ユウコ ちょっと!」
ユウコが アサカに手をひっぱられて連れていかれた場所は
二人でおしゃべりする時によく利用している すぐ近くのポルトの
一階ロビー だった 壁際のテーブル席につくと アサカは 深い
ため息をついた・・・
「 さっき コウジさんが 女の子同士で秘密の話でもしておいでって
言った時ね 私 ドキッとしちゃった なんだか私の心の中を見透か
されたみたいで ・・・だって ホントに ユウコに聞いてもらいたい
秘密の話があるんだから・・・ 」
急ぎの相談ごとがあると言ったわりには アサカは なかなか
本題に入ろうとしない コウジとした約束の時間は 十分間なのに
「 あのね 変なこと言うようだけど・・・
信じてもらえないかもしれないけど ・・・ 」
「 アサカらしくないな ~ はっきり言いなさいよ~ 」
短い沈黙のあと アサカは 意を決したように口を開いた
「 私がユウコの店の中に入った時 ・・・ あの時ね ・・・
店内にいたのは ユウコとユキエおばさんだけ ・・・
最初は 二人だけだったの ・・・ 絶対!
コウジさんは そこにはいなかったのよ!」
「 ・・・? なに? どういうこと? アサカ やだ!
へんな冗談よしてよお~~ 」
そう言いながらも ユウコは 親友のいつになく真剣な口調に
妙な胸騒ぎを覚えた
つい先ほどまで 適度に効いていたポルトのロビーの冷房が
ユウコには 急に 肌寒く感じられてきた ・・・!
*おことわり*
地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが
登場しますが これは あくまでフィクション小説です