2012年2月5日

『銀天街物語』第九話

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            告白

文と絵 ☆K(ケイ) 

「 どうしたんですか~ おばさん  こんなにたくさんの

イチジク~!  あ、ユウコ 悪い! 冷たい麦茶 もらえる?

ハイヤ踊りの練習が長引いて やっと終わったとこなのよ~ 

もう喉が カラッカラ ~!」

店の中に入ってきたのは ユウコの親友 アサカだった!

「 プリンが冷えてるから ユウコといっしょに食べたら?」

「 あっ それも いただきます! いつもすいませ~ん

ユウコんとこは いつ来ても おしゃれなオヤツがあるわね~ 

ウチのオヤツなんか いつも お饅頭とか芋ケンピとか・・・

いくら小料理屋してるからって オヤツまで和風にしなくてもねえ 」

「 ・・・ アサカ?  あのね こちらが ・・・ 」

「 その反動で わたし ケーキ作りとかに興味もったんじゃあ ・・・ 」

「 アサカ! 紹介するねっ!

こちらが このあいだ話してたコウジさん!」

いくらイチジクに気をとられているとはいえ ユウコのすぐ傍に

立っている長身の若者の存在が 何故か アサカの目には入って

いないかのようだった・・・ 

「 ・・・ え?」 ユウコが手をかざした方向を目で追ったアサカは

その時はじめて コウジの存在に気づいた様子であった

「 あ! ああ~ ごめんなさい ・・・ 踊りの練習がすっごくハードで

なんかまだ 頭がボ~ッとしてたみたいで ・・・ あの 私 コマツバラ

アサカといいます   学校の帰り道は いつもここに寄って 冷たいもの

とかオヤツとか いただいてま~す 

ウチ ここから ほんの数件先なんですけどねえ~ 」

「 ヒロセ コウジです ユウコさんから聞いているかもしれないけど

フルカワさんのところで 目下 居候中です  そうか~ ユウコさんとは  

いいお友達同士なんだね 」

コウジは 柔和な微笑みを浮かべて アサカに軽く会釈した

「 ・・・あのお~ お近づきのしるしに握手していただけませんか!」

( お~っ! アサカったら やるなあ・・・ ) 親友の物怖じしない

積極的な行動は しばしば ユウコを驚かせていた

 しかし アサカの性格からして ごく自然にみえるこの握手の

裏に隠された真の意味を この時のユウコは まだ察することが

できないでいた

「 えっ? いいけど  外歩いて来たところだから汗ばんでないかな 」 

コウジは 右の手のひらを ジーパンでこする仕草をして アサカの

前に差し出した  ここ数日フルカワの畑仕事を手伝っているせいか

彼の手は やや日焼けしていた    あの朝 橋の上から撒かれていた

菊の花びらと同じくらい白くて ほっそりと長い綺麗な指先が 今は

ちょっとゴツくなって 土いじりで荒れているような ・・・ 

( パパの手も 水仕事でアレてたな~  私のほっぺを撫でてくれる

ときも ザラザラしてたっけ・・・  コックさんなのに 熱いフライパンで

ヤケドしたりして よく手に傷作ってたっけ~  パパってけっこう

ウッカリ屋さんだったよね ・・・ ) ユウコは コウジの手に 父親の

思い出を重ねて しばし物思いにふけっていたのだが 店内の

雰囲気が 何かおかしいことを感じて 我に返った  

( この静けさは ・・・ 何? )

母親のユキエは 先ほどから カウンターの中で 冷蔵庫から取り

した手作りのプリンを 型くずれしないように 容器からデザート

移す作業に集中していた・・・ この静けさの原因は 意外にも

いつもは饒舌なアサカだった!

カウンターの上に置かれた手提げ袋の中から イチジクを数個

取り出し 黙ったまま意味もなく積み上げようとしている

( ど、どうしちゃったのよ~  アサカったら~  なんか急に 黙り

込んじゃってえ~~  コウジさんとの会話 完全に途切れちゃって

いるじゃないの~   どんな時でも 周りがシラケていたら 自分から

率先して その場を盛り上げてくれるのに ・・・ いつものアサカと

全然違うじゃないの~ )

親友の第一印象が コウジに悪く思われたら なんかイヤだな ・・・

ユウコは なんとかこの場を和ませようと 気をもんでいた

「 アサカさんも もしかしたら 僕たちの仲間かな? 四人目のね 」

沈黙を破り 会話のきっかけを作ったのは コウジのほうだった

「 え? 仲間って ・・・ 何のことですか?」

アサカは イチジクを積み上げる手を止めて コウジを見つめた

  

「 いや、 ユウコさんのお母さん以外 イチジクが苦手な人が集まった

みたいで ・・・ もし アサカさんもそうなら これで四人目だな ~って 」 

「 私は イチジク キライじゃないですよ  そのまま食べるのも好きだし

あとは・・・ そう! ジャム! イチジクジャムって美味しいんですよ

皮をむいたイチジクとグラニュー糖を コトコト煮ると トロリとした 

中に プチプチした種の食感が楽しいジャムになるんです 」

「 へえ~  生食以外に そんな食べ方もあるのかあ ~  

イチジクジャムって 僕 まだ食べたことがないんだけど ・・・

トーストした食パンに塗ったりして 食べるのかな?」

「 それもいいんですけど  私のお勧めはイチジクジャムマフィンかな

マフィンの生地の中に そのジャムをタップリ入れてオーブンで

焼くんですけど ・・・私 こうみえても スイーツ作り得意なんですよ

そうだ~ イチジクマフィン作ってみよう! 試食してくださいねっ! 」      

ユウコの心配をよそに 初対面とは思えぬほど 二人の会話は

次第に盛り上がっていった  ( な~んだ 気をもんで損しちゃったな ) 

「 のどカラカラだったんでしょ  はいっ! 冷たい麦茶! 」

「 あ、サンキュー! ユウコ ~ 」 アサカは コクコクと喉を鳴らして

コップ一杯の麦茶を 一気に飲み干した 

「 さあ! みんなでプリンでも食べましょ~ 私が作ったプリンも

アサカちゃんのイチジクマフィンに負けないわよ~ 」 

ユキエは そう言いながら 店の一番奥の四人がけのテーブルに

プリンの皿を四枚並べはじめた   

「 あ! おばさん すいません! 私 うっかりしてたんだけど

ユウコに 今すぐ相談に乗ってもらいたいことがあったんです ~

ユウコ! ちょっとだけ 話を聞いて! 外で ・・・ ねっ!」

「 え? なに? 突然 ・・・ ここで話を聞いたら ダメなの?」

「 ん~  それが ・・・ ちょっと デリケートな相談ごとなんだ~ 」  

「 じゃあ 男性の僕がいたら オジャマになるといけないから

退散することにしようかな  フルカワさんに頼まれて こちらに

イチジクとトマトを届けにきただけだから 用事も済んだことだし 」

気を利かそうとしたコウジの言葉を アサカは 慌てて遮った             

「 あっ、コウジさんとは せっかくこうして知り合えたんだし

もう少しお話したいから ここにいてください!

私たち 十分くらいで すぐに戻ってきますから! ねっ!」

アサカの強引ともいえる申し出に コウジは 苦笑した

「 いいよ プリンでも食べながら待ってるから 女の子同士二人で

秘密の話でも しておいで 」

「 ほんとに すぐ戻ってきますから! ユウコ ちょっと!」

ユウコが アサカに手をひっぱられて連れていかれた場所は

二人でおしゃべりする時によく利用している すぐ近くのポルトの

一階ロビー だった   壁際のテーブル席につくと アサカは 深い

ため息をついた・・・    

「 さっき コウジさんが 女の子同士で秘密の話でもしておいでって

言った時ね 私 ドキッとしちゃった  なんだか私の心の中を見透か

されたみたいで ・・・だって ホントに ユウコに聞いてもらいたい

秘密の話があるんだから・・・ 」

急ぎの相談ごとがあると言ったわりには アサカは なかなか

本題に入ろうとしない   コウジとした約束の時間は 十分間なのに  

「 あのね 変なこと言うようだけど・・・

信じてもらえないかもしれないけど ・・・ 」

「 アサカらしくないな ~  はっきり言いなさいよ~ 」

短い沈黙のあと アサカは 意を決したように口を開いた

「 私がユウコの店の中に入った時 ・・・ あの時ね ・・・

店内にいたのは ユウコとユキエおばさんだけ ・・・

最初は 二人だけだったの ・・・ 絶対!

コウジさんは そこにはいなかったのよ!」

「 ・・・? なに? どういうこと? アサカ  やだ!

へんな冗談よしてよお~~ 」

そう言いながらも ユウコは 親友のいつになく真剣な口調に

妙な胸騒ぎ覚えた 

つい先ほどまで 適度に効いていたポルトのロビーの冷房が

ユウコには 急に 肌寒く感じられてきた ・・・!

*おことわり*

地元小説の性格上 実在の地名・学校名・施設名などが

登場しますが これは あくまでフィクション小説です