望郷五月歌 佐藤春夫
「塵まみれなる街路樹に 哀れなる五月(さつき)来にけり 石だたみ都大路を歩みつつ 恋しきや何ぞわが古里(ふるさと) あさもよし紀ノ國の 牟婁の海山 夏みかんたわわに実り 橘の花咲くなべに とよもして啼くほととぎす 心してな散らしそ かのよき花を 朝霧か若かりし日のわが夢ぞ そこに狭霧らふ(さぎろう)~~~~~~いざさらば 心ゆく今日のかたみに 荒海の八重の潮路を運ばれて 流れよる千種百種(ちぐさももくさ)貝がらの数を集めて歌にそへ 贈らばや都の子らに」
佐藤春夫の「望郷五月歌」です。高校生の時に出会ったこの歌は(塵まみれなる街路樹に)で始まる52行に亘る長詩で、佐藤春夫の(望郷譜)の代表作として、若かりし日の心に深く刻まれました。長い時を経て、今、この緊急事態の時、天草の地で五月を迎えて改めて佐藤春夫の心情を思いやっています。佐藤春夫が心を寄せる古里新宮の海・山、それが天草の海や山と重なってきます。又、中学時代に読んだ夏目漱石の「心」の中の先生の遺書を涙ながらに読んだ記憶がありますので、この際、ぜひ再読しようと思っています。
日本国中、世界中が目に見えないウィルスに恐れ、戦っています。一日も早く平穏な日々が戻ってきますように、祈るばかりです。今月も天草で暮らします。

天草西海岸のサンセット
2020年05月01日更新