歌舞伎界の澤瀉屋一門の6月公演は初代猿翁と3代目段四郎の50回忌の追善と、一門に所縁のある名跡の襲名披露という慶事が同時に行われました。

猿之助改め二代目市川猿翁。亀冶郎改め四代目市川猿之助。新猿翁の長男、香川照之の九代目市川中車の襲名披露、そして香川照之(九代目新中車)の長男政明が幼少ながら五代目市川團子を名乗って初舞台の披露をする運びとなりました。

私は学生時代から、歌舞伎の世界に親しんで来ましたが猿之助一門とは縁がなく初見でした。

口上では、人間国宝・坂田藤十郎さんが進行役を務め、新猿翁が不自由な体で紋付裃に威儀を正し台座に乗って登場し口上を述べました。言葉ははっきりしなくても、眼力は強く感じました。新猿之助も感謝と今後の重責を果たす所存を述べ喝采を浴びました。香川照之(新中車)も汗を滴らせての懸命のご挨拶でした。四十数年にわたる父との確執を乗り越え幼い息子と共に歌舞伎という未知の世界に挑戦し親子三代同じ舞台に立つ感激と緊張を噛みしめているに違いありません。これからも、挫けず、弛まず頑張ってくれるよう応援し続けていきたいと思いました。又、新猿之助がとてもとても綺麗、とてもとても上手です。「義経千本桜」では鼓の皮になった母狐を恋う源九郎狐を演じましたが、狐を表現する指先のしなやかさ、濃やかさ、身体の柔らかさ、変わり身の素早さ、どれをとっても素晴らしいものでした。最後はこの母の鼓をかき抱き、所謂「宙乗り狐六法」で空中高く吊り上げられ桜吹雪舞い散る中、天井の花道口に吸い込まれて行きました。千秋楽とあってカーテンコールに現われた新猿之助に観客一同総立ちになって惜しみない拍手を送り続け感動の舞台の幕が静かに下りました。

外へ出れば梅雨の間の晴れ日和、銀座の町並みに七夕様の笹飾りが風に緩やかに揺れていました。いい日、一日でした。

 

歌舞伎追善-襲名披露公演-14

 

 

 

2012年07月01日更新