七十二候だより いのちの暦 [第56回]
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霜止出苗 しもやんでなえいずる

家々のお話
片寄斗史子


東京では、このところ気温が上がって、
どこを訪ねても、電車を降りると、
街路樹で視界が緑色に染められます。

いい匂いがすると思えば
住宅の2階のほうから白い藤の花。
短い房丈の、香りのいいダルマ藤、と友人から教わりました。
そのお隣の家には黄色のモッコウバラ。

私の家のベランダでも鉄線が咲き
ローズゼラニウムなどのハーブとともに花ざかり。
いつもより早い初夏のようですが、
気温は上がっても、でも、まだ、どこかに
終わり切らない春が、空気を“ぼんやり”させています。

さわやかな風、透明な陽射し、緑の匂いの
ほんとうの初夏は、
ゴールデンウイークが明けるとやってきます。


     ジャスミン

少し前のことになりますが、まだ寒さの残るころ、
通勤途中にある町工場が、
気がつけば、ある日、更地に変わっていました。

目を見はったのは、
それまで工場にふさがれて見えなかった家々が、
いちどきに4、5軒、まるまる姿を現わしたことです。

工場とのあいだに路地があり、
奥に家があるだろうことはわかっていましたが、
工場の跡地の向こうに“出没”した家々は
外観に過ぎないのに、無防備に家屋をさらけ出しているようで、
思わず目をそらしてしまいます。

毎日通っていた道の奥に、こういう家があったかと知る、
ただ、それだけのことなのに、
工場に覆われていた景色の中に人の暮らしが見え、
妙に気恥ずかしいような、目新しい気持ちでした。

更地があらわれたことで、
そこに霜柱を見ることができました。
そうして、つい最近は一部分に青々と
雑草が芽を出していました。
まさに「霜止出苗(しもやんでなえいずる)」です。

その角を曲がったところの家は、
更地を見せる間もなく、ある日、
二軒の建て売り住宅に変わっていました。
やや大きめのゆったりとした風情の家でしたから、
こちらはちょっとさみしく眺めてしまいました。

変わらぬたたずまいを東京の家に求めるのは
無理な話ですね。

新しい「毎日が発見」(5月号)、
巻頭の聞き書きで、
吉沢久子さん(家事評論家・随筆家)は、
ご自分の家が平屋であることを
こんなふうにお話しくださいました。

「この土地は、口をきいてくださる方があって
お隣のお庭を半分分けていただいた土地なんです。
ですから私が生きている限りは、お隣の邪魔にならないよう、
日差しを遮らないようにと決めているんです」。

こういうお話をお伝えできるっていいな、
そう思いながらまとめたお話です。
97歳のひとり暮らしの、ほんとうに今、を
聞かせていただきました。読んでくださいね。

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「天草を結ぶ会(あまゆい)」
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毎日が発見
2015年04月28日更新