全19巻に及ぶ大作を読み終えました。
今から読む方は、内容がわかってしまう恐れがあるので、読まないでください。
中国の北宋末期を舞台にした中国の歴史小説「水滸伝」は、吉川英治などが書いていますが、私は読んだことがなかったのです。でも、何か気になっていたある日、出向いた馴染みの書店の文庫版コーナーで、「北方謙三が辻褄の合った素晴らしい小説に生まれかわらせた」とのPOPを見て思わず第1巻を買ってしまいました。
中国の歴史は、浅田次郎の「蒼穹の昴」を読んでから興味を覚えました。宦官や科挙の制度(日本にはありませんが)、役人の腐敗は現代の社会にも共通していて、未だに同じ過ちを繰り返しているのがよくわかります。小・中学生の頃、横山光輝のマンガを読んだ記憶もあり、林冲(りんちゅう)や魯智深(ろちしん)などの登場人物の名前をかすかに覚えていたのです。さすがに詳しい内容までは思い出せませんでしたが、梁山泊という要塞にこもった108人の豪傑が、国家と闘うというくらいは知っていました。このことも購入には影響したのでしょう。
読み終えた後、素晴らしいの一言で言い表すのはもったいないくらいの小説でした。身体が震えるのです。なにより800年も前の人物が生き生きとしています。林冲の妻への心の葛藤や、公孫勝の過去などストーリーが進んでいくうちに、彼らの肉や骨が私の血に混ざり合ってくるように感じるのです。何という一体感。さらに、読ませるスピードが落ちないのも魅力なのだと思います。北方謙三の文体はきびきびとしていて、無駄な表現や文字がなく、頭にスーッととけ込んでくる感じなのです。
また、実際にその場面を見ているかのような戦闘シーンはとにかく圧巻です。終盤の童貫軍との死闘は凄い! の一言。
原本は、人物の性格やストーリーがちぐはぐな部分があるといいます。北方謙三の水滸伝は、そのへんをきっちりと組み直したのです。さらに「塩の道」という資金源や、「青蓮寺」という今でいうCIAやスペツナズのような暗殺、策略の国家組織を新たに登場させたことだと、あとがきの諸氏は書いています。北方謙三渾身のリアリティーの追求なのでしょう。人物の性格や風貌もよく描かれています。一丈青扈三娘の容姿の美しさや史進の上半身の9匹龍の入墨、各武将の表情の変化は目で見ているかのような感じになります。それぞれの人物の終焉もダイナミックかつ繊細に描かれていて、感動を覚えます。
秀逸無二な作品です。
こんなに心揺さぶられる時代小説は、浅田次郎の「壬生義士伝」以来です。「壬生義士伝」はとにかく泣けたが、「北方謙三の水滸伝」は狂おしいほどの臨場感に感動し、涙します。
時間と多少のお金がある方は、読んで損はない本だと思います。
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