蓮の花
蓮ゆらぎ蓮しづまりて音もなし (秋桜子)
蓮、睡蓮、河骨、いずれもスイレン科の水草ですが、それそれに
個性のある花姿を誇ります。睡蓮といえば、パリ、オランジュエリー美
術館のモネの絵。河骨からは、エニール・ガレのガラス器を連想し
ますが、蓮の花のは、今まで強いて思い入れはありませんでした。
蓮は、夜明けと共に音をたてて花開くといわれています。真偽は
ともかく、その芳香と清々しい姿は、君子花と呼ぶにふさわし気
がします。一昨年の七月、叔母の野辺送りの際に通りかかった一面
の蓮畑は、まさに幽玄の世界。蓮の花々が、まるで叔母を毅然と見
送っているかの如く見えました。火の国熊本の強い陽ざしは、一瞬、
蝉時雨をかき消して時空を超えたような錯覚を呼びおこします。
白昼の薄紅色の蓮の花が、若く美しい頃の叔母を髣髴とさせ、ふと、
これが別れではない、年々歳々花々のある限り、いつでも会えると
いう想いにかられました。
同じ夏、上海の古美術店で、一個の壷と出会いました。清朝、光
緒年製で乳白色の地にぼかしも見事な紅蓮。すっと伸びた茎と、
夏の朝霧を銀色に転がす広葉も瑞々しく描かれています。この出会い
は必然のような気がして、大事に大事に持ち帰りました。
時間の止まりそうな炎暑の盛り、そっと目を閉じると凛した蓮の花が
見えます。