小宮地と大多尾の中央に位置する屏風連山の
一角に竜洞山(りゅうとうざん)がある。
この一帯には、
「楊貴妃(ようきひ)」
「東見野(ひがしみの)」
「西見野(にしみの)」
「辰の穴(たつのあな)」
といった、楊貴妃にまつわる「字名」が残っている。
【~伝承~】
今から千二百余年の昔、竜洞山のふところに
見事な屋形が建っていた。その屋形には絶世の美女が
住んでおり、あまりの美しさに村人たちは狸か狐の化身
ではないかと噂し、誰一人近寄る者はなかった。
ある年の夏、村に疫病が流行した。
それを知った屋形の美女は唐の国から持ってきた
「楊貴湯」を村人たちに分け与え、人々を病から救ったという。
その一件以来、村人たちは屋形の美女を尊敬し
ときおり屋形へ訪れるようになり、次第に仲良くなった。
そして彼女が、唐の国から逃れてきた「楊貴妃」という
高貴な方だということを知ったのである。
楊貴妃が玄宗皇帝の迎えを待ちわびていたある日、
空いっぱいに雲が立ち込め、雷鳴がとどろく中、
一匹の竜が屋形から舞い上がっていった。
のちに村人たちが確認しに行くと
そこに楊貴妃の姿はなく、屋形もなくなっていたが、
彼女が愛用していた香袋がひとつ
山中の大岩の上に置いてあったという。
【写真:楊貴妃像】
2020年12月21日更新